◯ ページ8
・
気まぐれに旅へ出る事には慣れていた。
本業の勉強より写真に夢中になり、撮りたい景色があればどこにだってフラっと行ってフラッと帰ってくるなんて、日常茶飯事。その都度騒いでいたら身が持たない。最初こそ不安を抱えたけど、いつだって優希のもとに帰ってきたのだ。
そのたび美しい景色を見せてキラキラとした瞳で旅の話をする禄朗が大好きだった。
それがある時いなくなったままいつまで経っても帰ってこなくなった。一カ月がたち、半年が過ぎいよいよおかしいと思っていた時、風のうわさで大学も辞めアメリカに渡ったらしいと聞いた。
側にいたはずの優希は何も聞かされていず、まさか他人から彼の足取りを教えられるとは思っていなかった。
電話も通じなく、音沙汰一つないままようやく「捨てられたんだ」と気がついたときの衝撃を今も覚えている。
見回すと禄朗の身の回りのものは何一つなかった。身軽にどこにでもいけるよう持ち物なんてほとんどない男だった。彼は優希さえいつでも置いていける程度にしか、思っていなかったのだ。
全てを理解した時、まっさきに携帯は解約し、引っ越しもした。
もうかかってこない電話、くるはずもない男を持っていることほどつらい事なんかない。いつか、もしかしたら、なんて期待をしてしまうから。彼のことをずっと待ち続けてしまうから。
そんな自分が怖かったから必死の思いで捨てたのに、これだ。
「それにしてもさー、電話繋がんなくてビックリした。寂しかったぞおい」
大したことではないような響きで、禄朗は優希の頭をコツンと小突いた。
痛い、と文句を返して頭に触れる。
あんなに苦しんでいた自分はバカみたいだ。
優希は琥珀色のお酒を口に含むと、ふ、と笑った。優希の連絡先が変わったことに今の今まで気がついていなかった。
7年間一度も接触を取ろうとしてこなかったことがわかってしまう。
あのまま来ない連絡を待ち続けなくて本当に良かった。バカらしくて涙が出そうだ。
「それならよかった」
にこり、と笑って見せる。
41人がお気に入り
感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
モノモノ(プロフ) - 花奏さん» 普通に続きますよ。この後も悲劇の連続なので、書くのが苦しいです(>_<)でも頑張って続き書いていくので、よろしくお願いします! (2021年4月12日 7時) (レス) id: 995658f693 (このIDを非表示/違反報告)
花奏(プロフ) - これ続きますよね、?深夜ながらに泣いてしまいました……。とっても素敵に物語が動いていて、私の心情が左右しまくっています! (2021年4月11日 23時) (レス) id: ed1d1a00c3 (このIDを非表示/違反報告)
モノモノ(プロフ) - 夜市さん» わざわざ感想ありがとうございます。情景描写の書き方は今でも尚苦戦します。亀更新になりますが、よろしくお願いします。 (2021年4月7日 22時) (レス) id: 995658f693 (このIDを非表示/違反報告)
夜市 - 情景描写や心情の表し方がとても繊細で、素敵な話ですね。お体に触らぬ程度に更新、頑張ってください。 (2021年4月7日 14時) (レス) id: 5befe0aadf (このIDを非表示/違反報告)
モノモノ(プロフ) - 花奏さん» 感想ありがとうございます。明日美ちゃんが可哀想になってきたけど、頑張って更新したいと思います。 (2021年3月10日 8時) (レス) id: 995658f693 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ