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キルケゴールと踊る《参》 ページ4

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「これ以上莫迦なことは、」
「『やめろ。』」


その時、初めて中也は足立と目があった。


「そう、仰るのですか」


足立は少しの動きで後方へ飛び退け、中也から間をとった。その間も決して刀の構えを解かない。


そうすれば中也がこれ以上動かないことを知っていた。


「中也さん」


足立は黒い瞳で中也を覗き込み、幼い子供が親を試すように尋ねた。


「あなたは、罪もない人間が。殺されても良い理由があるとお思いですか」

「――――。」

「……森鴎外の命令なら、誰だって殺すのですか? たとえマフィアと何の関係もない、罪のない一家であったとしても。相手が子供でも。命令通りに殺すのですか」


何かと比べられている。それを直感しても、中也は答えに迷わない。己が正義と信じる価値観をただ口にした。


「殺す」


それから、少しの間もおかずに言った。


「首領の命令に意味なんざ求めねえ。任務に必要な暴力をためらう理由があるか?」


足立は大きなため息をつき、薄っすら笑った。眼はどんな微弱な光でも溶けてしまいそうなぐらい、黒く濁っていた。


浅く息を吸い込み、まるで呪詛をとなえるように和歌を詠んだ。


「さりともと、思ふ心にはかられて。世にも今日まで、いける命か。……なんて、ね。ふふ。こんな気持ちだったのでしょうか。彼女は」


足立は子供のように歯を見せて笑った。やがて、彼の体を貪るように紙が群がりはじめる。


「俺が信じてきたものは一体、何だったのでしょう」

「——待て、おい!!」

「貴方も、あいつらと同じかィ……」


中也が小さな叫びをあげ、少年を腕に押し込んだ時には、


日本刀は真っ直ぐに足立の腹を貫いていた。


肌は血の気を失い、健康な色を帯びていた唇も真っ青に染まっている。足立は身じろぎどころか、震えてすらいなかった。


濃い鉄錆(てつさび)の臭いがする。


中也はあわてて抱き起こしたが、足立の腹の正面に大きな穴があいている。心臓が鼓動するたびに血を吹き出していた。


そこで中也は、とある詩の一句を思い出す。——嗚呼。また一人のピエオロが、慢性孤独病で死んだ。


「クソ……クソ!!! 畜生、畜生!!」


足立が唱えた和歌の意味を、中也は知らない。


怒号をあげながら、階段を駆け上る医者の声が、とても遠くに聞こえた。

終わりの始まり→←キルケゴールと踊る《弐》



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アバンギャルド・マボ(プロフ) - PVの方も見てくださってありがとうございます!!!いつか未来分岐のあるノベルゲーム版を書いていきたいと思っておりますので、その時は是非プレイしてやってください!! 遂行する前から読んでくださってありがとうございます…コメントめちゃくちゃ嬉しかったです… (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - 読み込んでくださってありがとうございます(;_;) 台詞に言及してくださるのが嬉しすぎて…。 細かいことは気にしないを地で行く姿が伝わっていることが大変嬉しい!!ずるいぞお前って言いたくなるタイミングで男前を発揮する芥川が表現できててよかった!!! (2019年8月29日 13時) (レス) id: f747016130 (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - あと、PV観ました。何あれすっごいですね!!音楽のセンスと文章ぴったりです!老爺ってまさか……子どもたちってまさか……と思いながら観てました笑。推敲する前から足立シリーズ好きなんですが、もっと好きになりました。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
よしな。(プロフ) - 不断の糸の芥川が好きすぎる。「どんな人生を歩んできたかなんて過去でしかない」って言えるのは君だけだよ……「文章だけで何を理解できる」か。これから大切なのは今であり未来だと言われてるみたいで。だからこのコンビは好きなんだ。 (2019年8月28日 12時) (レス) id: 97ebc294fb (このIDを非表示/違反報告)
アバンギャルド・マボ(プロフ) - わあああいつも有難う御座います!!この作品は初めて自分がシリアスに着手したやつなので、一番好きだといっていただける方がいるのが最高にうれしいです・・・これからもお付き合いください!!! (2019年7月28日 22時) (レス) id: 940de82038 (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:アバンギャルド・マボ | 作成日時:2016年10月22日 0時

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