霧は静かに ページ8
「そうだ、織田作」
店を出る前に織田作にある紙切れを渡した。
「これ、持っておいてくれないかい?」
店の外に出ると、涼しさを感じる風が頬を撫でた。 無機質なアスファルトの上を、二人で歩く。不意に、背から「太宰君」と声が掛けられた。どこか動揺が滲んだような声で。振り返れば予想通りの人物が居た。
「やァ安吾。飲みに来たのかい? 済まないね、もう私達は――」
安吾は私の言葉を遮って「違います、仕事です」と矢継ぎ早に云った。
「仕事?」
織田作が訊くと、安吾は胸元まで手を挙げた。
「これです」
安吾が口にしたと同時に黒の特殊部隊が音もなく現れた。四年前に
「澁澤龍彦をこの横浜に呼び込んだのは――」
安吾の表情は強ばっている。
「太宰君、貴方ですね?」
織田作は私と安吾を見比べると、彼なりに何か納得したようで頷いた。
「この横浜で、異能者の大量自'殺を生む心算ですか?」
安吾の背後から白い霧がじわじわとにじり寄る。
私はかつてマフィアに居た時のような表情を作った。この世の何もかもに生きる意味を見い出せなかったあの頃のような表情を。
安吾の喉仏が上下した。
「私を捕えられると思っているのかい――?」
途端、織田作が安吾を無理矢理伏せさせた。
次の瞬間、安吾の背後に迫っていた霧が勢い良く吹き出す。
私はその霧に紛れてその場から去った。
*
「太宰君……」
呆然と呟く安吾に、私は太宰の言葉を思い出す。
上着のポケットの中に入れた一枚の紙切れ。白紙の紙切れだ。
「織田作さん、何をしているんです?」
安吾は私の行動を奇妙に思ったのだろう、眉を顰めていた。
「店を出る直前、太宰から渡された」
そこまで云うと、私の手から紙切れが消えた。安吾は紙をぐしゃりと丸めた。
「何か判ったのか?」
私が問えば、安吾は「ええ」とだけ口にした。青筋が浮かんでいるように見えるのは私だけだろうか。
「なーにが『後はよろしく』ですか。ああ……胃が痛い」
安吾は胃を抑えると、よろよろと立ち上がった。
「織田作さん、僕は今から職場に戻ります。此れから例の現象が起きますが、ご武運を」
そう云うなり、安吾は特務課の特殊部隊と共に去っていった。
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夢秋(プロフ) - 蒼さん» ありがとうございます! 一歩間違えたら夢主ちゃん太宰さんに閉じ込められるくらい無茶してます。早く起きないかなー(どの口が) (6月21日 3時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
蒼(プロフ) - 主人公ちゃんんんん目覚めないと太宰さん泣いちゃうよ!?!?ついでに私も泣くよ!?(?)BEASTめっちゃ好きだけど!!作者様へ神作品です最高ですありがとうございます (6月13日 12時) (レス) @page50 id: 699f0917a9 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - いけるしかばねさん» ありがとうございます! これからしばらくリメイクに入るので実質回想シーン→BEASTで夢主なかなか起きないことになります( ͡ ͜ ͡ ) (2023年2月3日 14時) (レス) id: 28dc9b7eb5 (このIDを非表示/違反報告)
いけるしかばね - ぬあぁぁああ起きろよ主人公!!いやbeastもいいけど嬉しいですけど!!! 続き楽しみに待ってます頑張ってください! (2023年1月31日 16時) (レス) @page50 id: c9b27d8eb7 (このIDを非表示/違反報告)
夢秋(プロフ) - 蒼月さん» ありがとうございます!! イベントとか終わったらぼちぼちリメイクしながら再開します!! (2023年1月24日 2時) (レス) id: 9185832e78 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:夢野秋 | 作成日時:2021年11月1日 2時