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孤独の荘園５ ページ46

「……ごめんね、中也君」
「もういい」
中也はぶっきらぼうに応える。Aは小さく笑った。

「……なあ、帰る場所が無いなら、俺と一緒に来るか？」
「君と……？」
睫毛の奥の琥珀が揺れる。Aは目を伏せると少し考え込んだ後、「真逆中也君からこうして誘って貰えるとは思わなかった」と呟いた。

「君がそう云ってくれるのは嬉しいよ。だけど……」
言葉を詰まらせるAに、中也は言葉を重ねる。
「手前はかなりの実力者だ。それに、手前も俺と同じように異能者だろ。それも幻覚をみせる異能だ」
「……鋭いね、流石は未成年の寄り合いでリーダーを張っているだけある」
Aは驚いたように目を見開くと感心した様子で云った。

「……それで？」
促されるままに中也は紡ぐ。
「手前のその能力があれば、《羊》はもっと身寄りが無く後ろ盾もない子供が安心して身を寄せ合える組織になる。俺達の組織にとっても悪い話じゃない」
「成程、そういうことか」
Aが得心のいった顔で応える。

「確かに君の云う通りだ。私が居れば《羊》はもっと強力な組織になる。だけど、私を信用出来るのかい？」
「手前の云う通り、俺は手前を信用してねえ」
Aは予想通りの言葉に肩を竦める。そんなAを中也は真っ直ぐに見詰めて続けた。

「だが、手前なら本当の意味で俺と対等の立場に立てると思った」
「……！」
その言葉にAは僅かに瞠目した。
「それに手前なら、有難いことに手前が危惧した《羊》の状況も何とかしてくれるんじゃねえかと思っている」
「……随分買われたものだね」
Aは苦笑すると中也に向き直る。

「君の云う通り、私が居れば少なくとも《羊》が末端から暴走する可能性は格段に減るだろう。そして私も、私の存在を許容してくれる環境が出来ることは有難い。この世界に転移して丸一年、独りで生きてきたからね」
「じゃあ……決まりだな」
「ああ、宜しく頼むよ」
Aが手を差し出す。中也は一瞬躊躇うと、ゆっくりとそれを握った。

「……一つ訊きたいことがある」
「何だい？」
「何故、こんな話を俺にした？」

途端、中也は目の前の少女の琥珀の内に陰りが生じたように感じ取った。それは刹那の事で、次の瞬間にはまた人好きのする笑顔に戻っていた。

「そうだね……」
Aは暫く考えると、徐に口を開いた。

「君のような人に、世話になった事があるから……かな」

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