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孤独の荘園３ ページ44

「怖ー……」
態とらしく身震いしてから、子供は歌うように続ける。
「異能で、その人外の力で祭り上げられて、弱い羊の群を守る仮初の王様。強さという手札を持つ責任として皆を守る律儀な王様。哀れな子羊はそれに依存とその裏返しの恐怖で縛られている」
鳶色の瞳が僅かに揺れる。

「それって、本当に仲間って云える？」
子供はそこで一度言葉を区切ると、まるで嘲るように唇を歪ませた。
「君は独りぼっち。対等な仲間なんていない」
子供はそう云うと、中也の反応を楽しむように笑みを浮かべた。

「どうしたの？ 黙っちゃってさ」
中也は子供を見つめたまま沈黙した。その表情は普段より険しく、子供の言葉に思うところがあるのだと如実に語っていた。

「……手前、名前は？」
やがて、中也が静かに口を開いた。
「私の名前？ そんなの聞いてどうするつもりだい？」
子供が首を傾げる。
「名前ぐらい知っておいた方がいいだろうが。手前は俺のことを一方的に知っているようだが、俺は手前の事を何も知らない。それは不公平じゃねえのか？」

中也の言葉に子供は少し考える素振りを見せる。そして、ふむと一つ呟くと「まァ確かに、私は君の事をそれなりに知っている。一理あるね」と云ってから続けた。

「じゃあ教えてあげるよ。私の名はA、大庭A。よろしくね、中原中也君」
子供はそう名乗ると、ニコリと微笑んだ。

「……そうか、分かった。手前の名前は覚えておく。それで、手前の目的は何だ？」
中也は警戒心を露わにして尋ねる。
「目的？ ……君だよ」
「俺だと……？」
「分からないかい？」
子供――Aは不思議そうな顔をして小首をかしげた。その仕草は、見た目通りの子供らしいものだった。だが、次の瞬間にはまたあの薄気味悪い笑みに戻っていた。

「必死になって仲間を守って人間らしくあろうと無駄な努力をする君の事が気になって……おっと、危ないなあ」
話の途中で、中也は再び攻撃を仕掛けた。だがそれはあっさりと避けられてしまう。
「いきなり攻撃してくるなんて酷いじゃないか。私はただ君とお喋りがしたいだけなのに」
「戯言云ってんじゃねえぞ。こちとら手前と話すことなんて何も無い」
「まあまあ、そう邪険にしなくてもいいじゃない。ほら、折角こうして出会ったんだから仲良くしようよ」
軽々と中也の蹴り技を躱すAは笑顔のまま言葉を続ける。
「身体の主人じゃない者同士でさ」

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