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孤独の荘園２ ページ43

「訊く方が先に名乗るのが礼儀というものじゃないかな、《羊の王》サマ」
《羊の王》、その単語に中也は更に眉を寄せる。
「俺は王じゃねえ」
そう云って睨みつけるように視線を上げる。
だが、子供は怯えるどころか愉快そうな顔をして笑うだけだ。

「ええ？ だって君、あの子達の王様なんでしょう？」
子供はそう云うと指を差した。その先にいるのは先程毛布に寝かせた少年達だ。
「っ……手前！」
中也は怒鳴りつけながら子供の座っている場所に向かって駆け出した。そして勢いのままに飛び上がる。中也自身の異能である重力操作によって身体を宙に浮かせたまま、落下速度を加えて踵を振り上げた。

しかし、それは空振りに終わった。子供がひらりと身を翻して避けたからだ。その動きはサーカスの軽業師を思わせるもので、とても十歳程度の子供の動きとは思えないものだった。
着地と同時に、中也はまた走り出す。
今度は子供の逃げ場をなくすように建物の壁際まで追い詰めていく。だが、それでも相手の方が上手だった。

子供の姿が霧散したかと思えば、背後から声がした。
「危ないなあ、いきなり蹴り掛かるなんて」

中也は振り返らずとも相手が誰なのか理解していた。
「五月蝿え、手前が先に俺達の領土を荒らしたんだろ」
《羊》は反撃主義の組織だ。縄張りに入った者には容赦しない。だから《羊》の武器庫に手を出した者は許さない。苛烈な報いを受けさせる。それが中也のやり方だった。

「私はただ遊んであげただけだよ。ま、銃とかいう危ない玩具を使っていたから叱ってあげたけどね。ほら、彼等の命に別状は無いのだから別にいいじゃない。それとも、君のお仲間に何かあった方が良かったのかな？」

クスクス、ケタケタと笑いながら子供は云った。中也はその言葉に舌打ちする。確かに、《羊》の少年達は無事だった。けれど、少年達を傷つける事なく無力化するにはそれなりの技術が必要だったはずだ。それをこの子供は事もなげにやってのけたのだ。只の子供ではない事は明らかだった。

「……手前、何者だ」
改めて問う。
「確かめてみなよ、《羊の王》サマ」

少女はまるで舞台に立つ女優のようにくるりと回った。黒い、闇の色で染めたかのようなスカートのフレアが笑う。

「否――、人間二年生クン」
その単語に中也の動きが止まる。
「――あァ？」
中也は低い声で聞き返す。その様子に子供は楽しげに目を細めた。

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