【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

果実は熟れて ページ31

「か……は……」
永遠にも思える程の長い戦闘だった。
感じ取る情報を全て弄っている為痛みは無いが、もう私の身体が限界を迎えつつあることは明白だった。
当然だ。ただでさえこの異能は使えば私の身体と精神を蝕むと云うのに、自身の安全装置(リミッター)を解除した状態で戦い続けていたのだから。

ひゅうひゅうと、息が漏れ出る。
嘗て、前世で気管支喘息を患っていた頃、発作を起こした時もこんな音がしてたっけ、とぼんやり思い出す。体育のマラソン中、気管支が内部から腫れ上がり、上手く息が吸えなくて足を止めた時に「さぼりだ」「根性無し」と同級(クラス)の気の強い奴等に罵られたっけ。先生も、庇うことなんてしてくれなかったな。
嗚呼、思い出したら、ふつふつ、ぐつぐつ、ぐらぐらと腹の内で怒りが沸いた。

「がふ……」
咳き込めば口の中からぼたぼたと赤い液体が溢れ出てくる。異能の効果(せい)で、鼻につく筈の錆びた鉄のような臭いも判らない。
体温を失って白くなった指の先が赤に染って、なんだか白雪姫みたいだななんて場違いな事を考える。
雪のような白い肌に血のような赤い唇。その美しさを妬まれて、その唇を通して継母(ママ)に渡された毒林檎を喉に詰まらせた。王子様の接吻(キス)で目覚めて結ばれた。
継母は熱くて真っ赤な鉄の靴で踊って死んじゃった。

「君はよく頑張っているが、私を殺すことは出来ない」
どこか憐れむような声と顔で、目の前の白麒麟は云った。
林檎のような赤い瞳が私を見ていた。
「何故なら私は――」
「――“既に死を通過しているから”？」
私は己の血にまみれた拳で目の前の男を殴り付けた。
「――ッ！？」
澁澤は数米(メートル)ほど後方に飛ばされてから着地した。
「……何故」
目をかっ開き動揺する澁澤を見て、私の口からは笑い声が零れた。
「流石の白麒麟も驚いた表情だ」
そこまで云ってまた私は大きく咳き込んだ。新たに血が溢れてくる。内側から身体が損傷しているのが厭でも判る。
膝から崩れそうになるのを必死に堪え、私は澁澤の方まで歩いた。そして赤い液体がべっとりと付着した手で澁澤の手を掴んで引っ張った。
「さあ踊ろう」
澁澤は何故私に掴まれたのか理解出来ないままだった。
そのままぐるぐると回る。
「詰まらせた林檎を吐き戻すまで」
一度止まって、林檎のような瞳を下から覗き込んだ。
「熱い真っ赤な鉄の靴で、息絶えるまで踊ろう」

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