【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

受け入れること ページ22

敦君は芥川君を見て拳を握りしめる。
「どうして僕だけ、戻らないんだろ？」
その様子を見ていた芥川君は「愚者め」と吐き捨てた。
「まだ判らぬのか！」
芥川君の言葉に、敦君の体が強ばる。これは、トラウマを抱えた者のそれだ。
「何だ……」
茫然といった様子で呟く。
「何なんだ！」
敦君は自分を守るように腕を体に巻いて叫んだ。そして小刻みに震える。
「芥川！ どういう意味だ！？ おい！」
そんな敦君をものともせず、芥川君は霧の向こう側へ、骸砦の方へ歩き去って行く。

鏡花ちゃんは敦君に語りかける。
「怪我がひどい。あなたはここで休んでいて」
「え？」
ぽかんと口を開く敦君を置いて、鏡花ちゃんも骸砦の方を向いた。
「……鏡花ちゃん」
「黙っててごめんなさい……知られたくなかったの」
「何を？」
鏡花ちゃんは僅かに躊躇い、答える。
「携帯で動く夜叉白雪を」
鏡花ちゃんは敦君に振り返る。
「本当は嫌いたくなかったことを」
敦君は衝撃やその他の感情がごちゃ混ぜになったような顔で鏡花ちゃんを見る。
「任務は、私が果たすから」
鏡花ちゃん決意と共に骸砦へ足を進めた。
「鏡花ちゃん！」
敦君は追う為に立ち上がろうとしては倒れた。先程の戦闘で受けた傷が、敦君が立ち上がるのを妨げている。
「……鏡花ちゃん――――！」
敦君は喉が焼かれるほどの声で叫ぶ。その声は届かない。

また叫ぼうとする敦君を制止する。
「喉、痛めるよ」
「Aさん……」
敦君は泣きそうな顔で私を見る。そして拳でざらついた地面を叩いた。
「どうして、どうして僕だけ戻らないんだ……！ 」
私は敦君を一度抱き上げてから外套の上に座らせた。穴だらけとはいえ元は高級品だ。硬い地面よりかはマシだろう。
「焦っていたって、答は見つからないよ」
そう云って、私は敦君の隣に座った。
「……Aさんは、どうして僕だけに戻らないのか、判りますか？」
敦君の声は細かった。芥川君との戦闘や、組合との戦いを忘れてしまったかのような細い声。初めて会った時の、自分に何の自信も見い出せずに膝を抱えていた敦君が目の前にいた。
私は何故異能が戻らないのかの正解を知っている。だが、それは敦君自身で乗り越えなくてはならない事だ。
「判るよ」
「じゃあ……！」
正解を求める敦君を抑える。
「いいかい、敦君。正解を云ったところで、取り戻せるかは君次第だ」
骸砦の方を睨み付ける。
まだ時間はありそうだ。

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