【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

燻る赤２ ページ11

「如何だい？ 異能は戻ったかい」
私は手を叩きながら立ち上がる。服についた地面の砂やホコリは白い煙と共に落ちた。
「――『真冬のかたみ』」
みっちーが呟くように異能力の名を紡ぐ。その、どこか憂いを含んだ横顔は、与謝野女医に髪飾りをくれた彼を彷彿とさせるものだった。
周囲の金属が浮き上がる。
「戻りました」
彼は浮いた金属を戻してから異能を解除した。
「すんません、手伝って貰っちまって」
「いいよ、そんなこと。それより早く何処か隠れた方がいいんじゃない？ 私以外に異能者だってバレたら厄介でしょ」
私がそう云うと、みっちーは声を詰まらせた。
「ま、私も異能者だって他のマフィアにバレたら厄介なんだけどね。特に首領にバレたら、大戦の時の軍医委託生の如く扱き使われそうだし。異能力教義(ドクトリン)を前面に押し出す人だよ、首領は。あの人の論理的最適解には『心』が無い」
私は吐き捨てる様に云う。
「大戦の……あんた、何処まで知ってるんすか。大戦は十四年も前で……」
「首領――森さんが元軍医で、その部下として与謝野女医がいた事。……そしてその異能が戦況の悪化で酷使されていた事。当時の私はまだ物心も着く前だ。だが――軍の機密文書の『不死聯隊』論文をはじめ、記録を調べるくらい、“私” なら造作もないよ」
そこまで云うと、みっちーは感情が混ぜこぜになった表情を浮かべた。彼の兄の死も関わっているから当然だ。
兎も角、と私は背を向ける。
「ここは、お互い何も見なかったことにしよう」
私はそう云って、探偵社の方向へ走り出した。


*

近場の建物に登り、そこから飛び移るようにして移動する。
そのうちに、私は違和感を覚えて立ち止まった。
私の異能が、一向に襲って来ない。

予感がして、自身の異能名を紡ぐ。
掌に、桃色の花が、現れた。
それが意味する事。

背後を見る。
私と同じ顔をした存在がいた。
ふと、全て納得した。

「『道化の華(わたし)』は貴女」
「『道化の華(あなた)』は私」

感じ取るものを上書きする異能。
それは、私を守るための異能。
最初に発動した時は、私の願いを叶える為だった。

「私の “自尊心” それが『道化の華(あなた)』」
「そして夢主(あなた)はこの世界の “特異点” 」

私の異能が私を攻撃しなかった理由。
気配を消せば完全に認識されなかった理由。
その全ての理由がここにあった。

ああそうだ……知ってたよ、此の野郎。

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