【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

序章２ ページ2

広々としたロビーに入ると、シネマイレージの会員入会受付が行われている様子が目に飛び込んで来た。なんと、カードの絵柄が文スト仕様なのだ。
先程歩いていた景色の中に、ポートマフィアの面々が居た。エリス嬢は目の前のパンダについて話しているのか、自身を抱き上げる首領と視線を合わせている。そのすぐそばでは、中也さんがパンダに自身の帽子を被せニヤリと笑っていた。更に後方で、芥川が映画のチラシの表面を熱心に見ている。チラシを握りしめている為、皺が縦に何本も入っていた。
……入会しないわけがなかった。
私は手に入れたカードをそのまま自動券売機で使った後、丁寧に財布に入れた。

チケットを見せて小冊子を受け取り、劇場内に入る。指定の席に座り、小冊子の表紙をまじまじと見る。
豪華なアンティーク調の椅子に座して決して穏やかとは云えない表情で此方を見る敦君に、林檎を手で包んだオブジェクトに被せられた硝子ケースに触れて目を閉じ横を向く芥川。
敦君の足元に目を遣る。
『BEAST ――白の芥川、黒の敦――』
背表紙を右手の人差し指でそっと撫でる。小冊子と云うには分厚いな、と思った。
無線綴じの冊子をパラパラと捲る。文字の密度に、更に小冊子である事を疑った。

大画面では、春に上映される映画の宣伝や、映画館の会員の宣伝がしきりに流れているが、それには目もくれず、小説を流し読む。

太宰さん、マフィア首領！？
咖喱……赤胴色の頭髪……無精髭……織田？ ……えﾞ……織田作！？
織田作生きてる！？ 何で！？ ゑ？？？？？

丁度私が混乱したところで、劇場内が非常口の案内板と誘導灯を残し暗くなった。流石に此の暗さで読み続けるのは不可能だと諦め、私は小冊子を鞄にしまい込んだ。鞄にそれを入れる時の私の情緒は死んでいた。
いつの間にやら、大画面は映画の宣伝から鑑賞のマナーや注意点についてのものに変わっていた。


それも終わり、少しの静寂が流れる。
文字だけが、最初にあった。

ヨコハマ裏社会史上、最も死体が生産された八八日。
あらゆる組織を巻き込んで吹き荒れた血嵐、龍頭抗争。
――――その終結前夜。

銃声がした。
初見殺しの銃声は、劇場内のそこらじゅうから大音量で聞こえていた。
心の中で『あ』の字に濁音のついた悲鳴をあげる。
さようなら、私の鼓膜。


次の週にもう一度観に行った時も同じ様な体験をする羽目になることを、この時の私はまだ知らない。



それが、前世の――濃霧と林檎の記憶。

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