【文スト】濃霧と林檎？ 知ってたよ、此の野郎←【文豪ストレイドッグス】【太宰治】

序章 ページ1

――２０１８年 ３月上旬 東京、新宿。

迷宮と名高いＪＲ新宿駅。学校の帰りに途中下車し人並みに飲まれながらも、如何にかして東口から脱出する。まるで遊園地の脱出遊戯(ゲーム)にでも参加したかのような疲労感の中、地図と出口案内とを何度も見比べてから足を進める。
片手のスマホから目を離し、見下ろす様に建てられた周囲の建物を見上げ、新鮮な景色を目に入れる。
こういった時に、一時間以上かけて都心の高校に通うメリットをひしひしと感じる。鞄のポケットには定期券がすっぽりと収まっている。六ヶ月の定期券だけで五万円はする。金額を思い出す度、通っている専門高校が都立でなかったらと考え、身震いする。家は決して裕福では無いのだ。

人の流れに乗って歩くは歌舞伎町。夜に近付くことは躊躇するが、今日は考査後で午前授業だった。太陽は南中していた時と比べたら西側に傾いているが、今はまだ高い所にある。
周囲にはお洒落な若者二人組や勤め人が歩いていた。ナンパやスカウトしている人を見掛けることはなく、郊外育ちの偏見だと反省する。夕方になれば分からないが。

両脇に建物がひしめく通りを、緊張しがちに真っ直ぐ歩けば、突き当たりの建物の上に昭和の時代、そして日本の映画を象徴する怪獣が鎮座していた。それは、歓迎する様に此方を睨み付けているようでもあった。
すぐそばの更に高い建物に近視の目を向ける。下瞼を持ち上げるようにしてレンズ越しに細めて見れば、赤い球体のようなロゴと『TOHO CINEMAS』の文字が見えた。

長いエスカレーターに乗って目当ての建物に入る。エスカレーターはごうんごうんと、それでいて静かな音を立てながら乗客を上へ上へと運んで行く。ベルトを掴む手に伝わる震動が、子気味良い。
前方には私よりも少し上の年代の女性がぽつぽつと見えた。目的は同じなのだろうか、と勝手に想像した。

着いた先でまず目に飛び込むは映画のポスター。中央に主人公たる敦君がボロボロの姿で拳を握っている。そこからは青い光が漏れていた。
『まよい、あがき、さけぶ』
『だって僕は生きたかった』
敦の半生が、此のキャッチコピーに詰め込まれているのだと思った。
そんな敦君の上では、黒幕のように紹介されていた白服の三人が、各々此方を見ていた。唯一上下が反転しているように描かれた澁澤龍彦は、林檎を手に妖しく口の端を上げていた。

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