鼬 ページ29
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「…おい、もう行こうぜ」
「あ！ちょっと待って！」
佐久早くんの圧に負けたのか、すぐさま去っていこうとする二人を追いかけようと前に出れば、ツンっとジャージの袖を掴まれる。
なぜ止めるのかと混乱して佐久早くんを見れば、Aさーん！と古森くんがこちらに手を振って走ってくるのが見えた。
「びっくりしたよ！ 聖臣、急に走り出すんだもん」
でも納得。と私の方を見てニコリと笑う古森くんは、さっきの人達知り合い？と佐久早くんに話かける。
それに対して、豊岡高校…と佐久早くんが呟くと、あぁと何か察した様子の古森くんは、放っておいて大丈夫ですよと余裕な表情を見せた。
「さっきの試合で負けたこと気にしてるんだろうね」
今回は何て言われた？と面白そうに聞く古森くんを、すました顔でガン無視する佐久早くん。
強豪校の一年レギュラーである彼らにとっては、悪口を言われることなどあまり珍しいことでもないのかなと、慣れた様子の二人を見て複雑な気持ちになる。
「私、すごい悔しいんだけど！」
いつもこんな感じなのかと腕を組みながら一人怒っていれば、普段なら俺も佐久早も言い返しちゃいますよと言って古森くんがこちらを向く。
「でも今回は、俺らの代わりにAさんが怒ってくれたので」
ありがとうございましたと明るくお礼を言う小森くんに、まさかお礼を言われると思っておらず、何もお礼をされることをしていない！と私は勢いよく首を横に振る。
しかし、そんな小森くんとは対象的に、私の方をじーっとキツく睨みながらお礼をいう佐久早くん。
圧に耐えられなくなって小森くんに助けを求めると、可愛い眉毛を下げて困ったように首を振られてしまい、結局私は佐久早くんの返事を待つことにした。
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「…今回は近くに居たから良かったけど
普通に考えて危なかったですよね」
「え？」
突如そう話し出した佐久早くんは、相手が相手だったら殴られていてもおかしくない。それで怪我されても迷惑ですよとキツく叱る口調で言われてしまい、私はうっと何も言い返せなくなる。
「こんなこと言ってるけど、すごく心配したんだと思います」
Aさんが男に絡まれてるの見て飛び出して行ったんですから！と笑う古森くんに、佐久早くんの表情は更に険しくなった。
「ごめんね、次からは気をつける。
心配してくれてありがとう」
「別に、」
◇
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作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
