鼬 ページ28
◇
「さっきトイレで佐久早に睨まれたんだけど」
4人で今後について話し終わった後、飲み物を買いに行こうと階段を降りれば、自販機の前で話をしている人たちの会話が聞こえてしまう。
「噂通り態度悪いな」
「俺たちのこと見下してんだろ」
ちょっとバレーが上手くて有名だからって調子ノリやがってと、佐久早くんのことをろくに知りもしないのに幼稚な愚痴を吐く二人を心の中で嘲笑する。
いやいやちょっと上手どころじゃないでしょと脳内で勝手にツッコミを入れていれば、いつの間にか会話の内容は更に酷い方向へと発展していった。
「怪我でもさせて出場できないようにさせるか」
「それは笑う」
「さすがに大人しくなるっしょ」
こいつら言っていい冗談と悪い冗談の区別もつかないのかと、とうとう耐えられなくなって、あの！と大きな声をあげれば、二人はとても驚いた様子で振り返る。
「ずっと待ってるんですけど」
そう言って自販機の飲み物を指させば、あっ…と気まずそうに声を漏らして前をあけた。
「…睨まれたの、たぶん何か理由があったと思います」
「え？」
飲み物を買って黙って立ち去るつもりだったが、根も葉もないことまで悪く言われてしまっていたのがなんだか悔しくて、思わずそう口走る。
他人のことを睨むのは理由があっても良くないけど、トイレの後手洗わなかったりしたんじゃないですかとじとりと二人を見れば、片方の男の子が慌てたようにもう一人の男子を指さした。
「は、てか誰この人？」
「さあ…」
混乱した様子で顔を見合わせる二人に、口を出したはいいが一体私は佐久早くんの何にあたるのか、自己紹介をする上で言い淀んでしまう。
なんだろ、友達…でいいのかな。いや、後輩？
「あ、わかった。佐久早のファンでしょ」
悩む私を見て閃いたようにそう言葉を発すると、やめた方がいいよー。プレーはそこそこ上手いけど性格悪いからと私を見てヘラヘラ笑う男子。
もうやめようぜとその男の友人が止める素振りを見せるものの、もう一人は佐久早くんに対するアンチをやめない。
「っだから、佐久早くんの悪口言うなって…！」
そう私がヒートアップしてきたところで、突如現れた派手なジャージが二人を隠す。
ITACHIYAMAと書かれたジャージのロゴに驚いて上を見上げれば、今話題の渦中である佐久早くんが、目の前の二人を見てとても怖い顔をしていた。
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作者名：西川あや | 作成日時：2022年10月7日 1時
