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◆第IV章「魔女の棲家」 01 ページ33

「私はミネルヴァ・L(リリー)・カルディコットよ。一字も違えず、覚えておきなさい」

 ミネルヴァと名乗った女は、コポコポと高価そうなティーカップに紅茶を注ぐ。赤茶色の液体からは仄かに上品な香りが立ち昇る。
 ロベルティーネとメルヴィンは今、ミネルヴァに連れられて、ジャルドーレ通りから離れた森にある彼女の家に招かれていた。
 鬱蒼とした森に建てられた木造平屋建ての小さな家には様々な植物が無造作に自生しており、それこそファンタジー小説のワンシーンにありそうな家である。今にも妖精が現れそうな雰囲気を醸し出すこの家に、貴族宛らのドレスを身に纏う女が住んでいるのだと思うと、中々のミスマッチさにロベルティーネは渋い表情をせざるを得なかった。
 家の中はごちゃごちゃしていて、これぞ魔女の家と言った具合の内装をしており、様々な書体で書かれた本や書類の山に、瓶やフラスコ等、科学実験でも行われそうな装置や薬品からは微かにツンとした匂いが放たれている。小さな机には大きな水晶やカード等の占いの道具もある他、様々な魔法陣が描かれた紙や札があっちこちに点在していた。一際大きく目立つ暖炉には、暖かな炎が薪を燃やしながら部屋を暖める。しかし、燃やしている物の中には、よく分からない文章が書かれた書類等も燃やされていた。
 そんな不気味な家の机の上には、甘い香りが漂う色とりどりのお菓子が並べられており、ロベルティーネは生唾を飲んで食欲を抑え込む。だが、お菓子には目が無いだろうメルヴィンはそれらに全く手を付けず、紅茶を注ぐミネルヴァをジッと睨みつけていた。出会ってから一日程度しか経ってないロベルティーネも、あの穏やかで少し抜けている青年の表情に少しだけ驚きつつ、彼女を訝しげに見る。
 彼女はそんな目線すらも気にしないらしく、美しい笑みを浮かべると、「どうぞ」と紅茶が注がれたティーカップをソーサーと共に其々の場所に置く。

 此処に招かれる前、二人はミネルヴァの指示──指示と言うにはあまりに強引な物だったが──で、あの場所で起こった事件の後始末を行った。彼女曰く、「既に亡くなった無関係な遺体まで此方側に引き入れる必要はない」。この遺体をあるべき場所に返す、つまり一般市民に見つけてもらい、ちゃんとした形で埋葬して貰うのがこの青年にとっても一番良い事であるのだと言いたいらしい。結局は遺体を此処に置いていく事になるので、警察沙汰になる事は免れない。

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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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