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「は?」

 それは全世界の誰であっても、ロベルティーネの様な言葉が開口一番に放たれる事だろう。突然の殺害依頼に彼女も口をあんぐりとさせる他なかった。そもそも、殺されたのに殺せなかったから今、メルヴィンはこの世に生きている訳で、仮にあの時彼女が殺害出来たなら、とっくの昔に彼はあの世の住人になっていた筈なのだ。それなのに自らの殺害の依頼をするとは、実に奇妙な話である。最早、揶揄われているのかと錯覚するぐらいだ。

「何が目的なんだ?」
「目的は無いよ。只、殺して欲しいだけ。出来るだけ、一瞬で。あの時みたいに」

 頸動脈をバッサリと。メルヴィンが手刀で首筋を切る様に払う動作をする。彼と始めて会った時、ロベルティーネが真っ先に行った殺害方法である。丁寧に説明されなくとも分かっている。あの日の出来事は一寸違わず覚えている。贅肉社長の小言以上にだ。
 勿論、彼女にとっては願ったり叶ったりな依頼ではあったが、殺そうと思っても殺さない相手をどう殺せば良いかなんて知らない。同じく、殺そうと思っても殺せなかった人物であるコト・アンノウンは、パラサイトセラピーによって自己再生能力が特化ている為、切った側から寄生虫によって再生されてしまうのだが、メルヴィンのそれはまた別だった。再生や修復と言うよりも、元に戻した(・・・・・)と言った方が表現として合っているとも言える。まるで時間が巻き戻ったかの様な、異様な再生の仕方をしていた。不気味だったのだ。正直、関わりたく無い内容でもある。

「でもね、今すぐにって訳じゃない。一つだけ良いかな?」

 依頼に付け加える様に、メルヴィンは口を挟む。わざわざ「今すぐじゃない」と言っている辺り、何らかしらの要望があるのだろうが、残念ながらロベルティーネはこの依頼を受けるとは一言も言っていない。その点も踏まえて、仕方なく話を聞く。もしかしたら、利益が生じる可能性も不利益が生じる可能性もあるからだ。彼の依頼を受けるか否かを天秤に掛けて、様子を見る事にする。

「通報したいって願いならお断りだけど」
「違うよ。お願い事だとか、そんなんじゃないから。それに俺、通報出来る立場の人間じゃない。まぁ、聞いてよ」

 グレーの瞳が彼女を捉える。混沌としていて、闇が深く、まるで全てを吸い込むかの様な目で訴える。

「──俺、吸血鬼なんだよ。魔女に呪いを掛けられた、哀れな人間なんだ」

 彼はロベルティーネをまっすぐ見つめて、そう言った。

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十二月三十一日(プロフ) - づみさん» 有難う御座います。読んで頂き光栄です。更新頑張りますので、今後共宜しくお願いします。 (2018年3月3日 2時) (レス) id: 70aae954fa (このIDを非表示/違反報告)
づみ(プロフ) - お話がとても好きです、更新たのしみにしています。頑張ってください〜 (2018年3月2日 16時) (レス) id: 688586594f (このIDを非表示/違反報告)

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作者名:十二月三十一日 | 作者ホームページ:   
作成日時:2018年1月18日 21時

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