25話 ページ25
黙って抱きしめ続ける先輩の意図が分からず、恐る恐る顔を上げるとこちらを見下ろす端正な顔。
その表情はどこか拗ねた子供のようで、寂しそうだった。そして、
「昨日は怒鳴って悪かった。けど俺はお前と前の関係のままがいいんだよ。何考えてるかわかんねぇーけど…お前はお前のままでいてくれッ」
弱々しい声にお腹に回る腕に力が込められて「お願い」と耳元で囁かれる。
本当にずるい。私の気持ちも知った上でそうやって懇願して、自分の意見を押し付けて、縋るように抱き締めて。思わず頷いてしまいそうになる。でも____
「前の関係」というのは後輩、先輩という関係?「私のまま」というのはお気に入りのおもちゃとしての私?
五条先輩、貴方は本当に私の気持ちを見てない。向き合ってもくれていない。
「…先輩、授業始まりますので退いてください」
「サボれよ。前みたいに俺と一緒に」
「嫌です」
お腹に回る腕を退けようとした時、クスッと笑い声が聞こえて
「フハッ!なんかさぁ、この会話前みたいじゃね?」
「!」
場違いに笑う先輩に怒っていたことも忘れてポカンとする。
「ッ今はそういうことじゃ…!「A、聞いて」
いつもの命令口調じゃない。これで私を黙らせられるのを分かってて、こんな時だけ目元を細めて優しく貴方は余裕そうに笑う。
「お前は俺の後輩なんだよ。だからお前にとっても俺はただの先輩。それ以上、以下でもない」
「…ッ」
そうだろ?と言い聞かせるように言ってくる先輩に顔を逸らして俯く。すると、その反応が気に入らなかったのか顎を掴まれて無理矢理顔を上げさせられた。
そこには先ほどの余裕さはなく、切羽詰まった表情。
「ッだから、間違ってでも好意…いや、変な気を起こすなよ。Aは俺の顔だけで、権力だけで、ステータスだけで見て惚れる女どもじゃねぇーだろ?」
好意という言葉に歪む顔。そして訴えるような口ぶりと微かに震える声で気付いてしまった。
先輩の中で好意はただ欲に塗れた汚いものだと認識されていると。好意を向けられることを恐れていると。
何故そうなったのかも、先輩の過去も女の人の経験も交流も全く知らない。そして私はその人たちと絶対違うとは言い切れないかもしれない。
けど、その人たちと全部を全部、重ねないで欲しい。
私自身と向き合い、想いを受け取って欲しいんだ。
それが、簡単なことではないのは分かってる。だけど
このままだったら何も進めないから。
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Omiso(プロフ) - 緑の白猫さん» 前作でも今作でもコメントありがとうございます!ドロッドロという素敵な褒め言葉、最高に嬉しいです!心情は特に意識しているのでそう言って頂けて光栄に思います!次回作を出せれた時はぜひ応援よろしくお願いします!最後まで読んで下さりありがとうございました! (2021年4月5日 14時) (レス) id: 00c4677ab1 (このIDを非表示/違反報告)
緑の白猫 - ドロッドロでおっもい(超褒め言葉)好み過ぎる作品をありがとうございました! 前作も読ませて頂きましたが、どちらも心情描写が堪らなく好きです。作者様のペースで新しい作品を作って頂ければ飛びつきます。本当にありがとうございました。 (2021年4月5日 13時) (レス) id: 41276e8159 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - ノアさん» 最後まで読んで下さりありがとうございました!いつもは今までの作品も読んで下さっていたのかな?今作も読んで頂き嬉しい限りです!世界観を味わってもらうよう文は意識しているのでハラハラしたという感想を頂けて大満足です!今後とも応援よろしくお願いします! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 00c4677ab1 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - muuさん» muu様!またのコメントありがとうございます!そして最後まで読んで下さりありがとうございました!憧れである貴方様に素敵な褒め言葉を頂けて感涙してしまいそうです(泣)いつも影ながら応援しています!そしてこの作品を応援して下さり本当にありがとうございました! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 00c4677ab1 (このIDを非表示/違反報告)
Omiso(プロフ) - 虹野原さん» そして貴方様のような素敵な方に読んでもらえて心の底からこの作品を作ってよかったと思います!今後においてまた作品を作る機会では貴方様の応援を糧に全力で頑張ります!本当にありがとうございました! (2021年3月21日 21時) (レス) id: 00c4677ab1 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:Omiso | 作成日時:2021年2月6日 18時