好きになった日のまま ページ4
▹▸A
私と及川さんの姿を見て何かを察したのか清水先輩はスコアノートを私から取り、「行ってらっしゃい」と背中を押してくれた。
第3セットが始まると及川さんはアップの為に体育館の隅で柔軟やアキレス腱を伸ばしたりしている。
及川「そーいや、マネージャーしてるの?」
A『…体験入部です。』
コートを見ながら苦笑いして見せると及川さんは哀しそうに笑って見せた。
及川「Aちゃんさ…まだバレー好き??」
分からない。
好きか嫌いかの2択なのにわかんない。
好きだと思ったり、嫌いだと思ったり。
及川「一生懸命試合見てるのになんか哀しそうに笑ってる。そんな顔してたら岩ちゃんに怒られるよ〜?」
手のひらでボールを弄びながらコートを見据える及川さんをチラリと盗み見ると、この人はホントにバレーが好きなんだな。と思えるくらい真剣に選手ひとりひとりを見詰めていた。
A『正直、わかんないです。でも…先輩や影山クンがマネージャーに誘ってくれて。何となく流れで…』
及川「アレ?今の飛雄ちゃんってAちゃんが水瀬だった事とかバレー辞めた理由とか知ってるの??」
A『…多分知らないと思います。苗字は今はAですし、利き手も変わってますし、髪の長さも違うし、私はバレーのルール知らないフリしてるので。』
知ってるのは及川さんと、岩ちゃん先輩と()と繋ちゃんだけです。
一瞬驚いた顔を見せてから、口元に人差し指を合わせそう言うとまたいつもみたいにニッコリ微笑んでくれる。
及川「やっぱAちゃんはAちゃんのままだね。良い意味でも悪い意味でも。」
昔の、まま??
思わず私より遥に高い及川さんを見上げる。
及川「う〜ん。なんて言うか無理して笑ってるでしょ?でもどこか吹っ切れてる。なのに迷ってて皆に背中向けてる。苦しいのに誰にも頼らないで独りで抱え込もうとする。そのクセお節介の世話焼き。心配性なのに意外と大雑把。」
どこか嬉しそうに話す及川さんはボールを床に置き、私の左手をそっと掬いあげながら、優しく両手を包み込んでくれる。
及川「俺が好きになったAちゃんのまま。出会った頃のまんまだね。」
ー好き
何故かその2文字が素直にストンと真っ暗闇で独りぼっち綻びと傷だらけの心に落ちていった。
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作者名:ツナ缶本仕込み | 作者ホームページ:http://@ya love
作成日時:2021年10月1日 20時