不器用ヒーロー ページ14
▹▸A
清水「Aちゃん。おはよう。帰ろっか。」
いつの間にか外は真っ暗で、烏野に到着していた。
身体を揺すられ薄ら目を開けると清水先輩が顔を覗き込んでおはようって時間でもないんだけどね。と微笑んでいる。
A『ご、ごめんなさい!』
寝起きで全く頭が回らないものの、今更ながら手伝おうと
“ 左手”を床につき勢い良く立ち上がろうとする。
A『ッ?!』
ーーヤバい
直後に感じたのは左手の大きな痺れと稲妻が駆け巡るような痛み。
完全に無意識だった。だからこそクセは抜けなくて。
慌てて左手を反射的に引っ込めると立ち上がろうとする身体を支えるものが無くなり、案の定バランスが取れなくなり景気が反転する。
影山「ッ?!Aサン?!」
たった一瞬の出来事かも知れないけど、
私の名前を呼ぶ声が聞こえたり、こっちに駆け寄ってくる部員が見える。
あぁ。倒れるんだなと、冷静に判断するくらいの余裕はあった。
なんでかは分からなかったけどどっかの映画のワンシーンみたいに周りの世界がゆっくりと動いてるように見える。
チラリと視界に入ってくる自分の手。
本能は無意識のうちに宙へ手を伸ばしていた。
伸ばした手の先は真っ暗で光なんて無いのを知ってる癖に。
今更、何も掴めないことは知ってるくせに。
どんなにガムシャラになったって、縋りついたって無駄なのは知ってるのに。
衝撃に備えてギュッと目を瞑る。
近くでキュッとシューズが床に擦れる音がする。
結構、勢いよく立ち上がってしまったから衝撃は大きいと思う。
次の瞬間、宙へと伸ばした手をグッと誰かに引っ張られ、その勢いでその人に抱き締められるタカチになる。
ほんの少し間が空いてから、恐る恐る目を開けると見慣れた顔が至近距離にあった。
影山「っぶねェ。…大丈夫ッスか。」
A『ぇぁ、大丈夫…です…』
私の上に乗り、右手で私の頭を片手で支え、もう片方の手を床につき身体を支えている。
言葉には喩えずらいけど、つまり私たちの身体は密着してる状態。
影山「よかった…」
トクリと胸が高鳴る。
優しい柔軟剤と汗の匂い。
それがひどく心地よかった。
やっぱ君は私のヒーローなのかも。
騎士でも王様でもなくて王子でもない。
ちょっと不器用なヒーロー。
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作者名:ツナ缶本仕込み | 作者ホームページ:http://@ya love
作成日時:2021年10月1日 20時