虎が残した傷痕５【文スト】 (ページ32)

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皆とバラバラに動き出したAは、太宰のいる病院へ向かった。

『すみません。太宰治の病室はどこでしょうか？』

ナースステーションにいる看護婦に尋ねる。

「太宰様の病室は３０１号室となっております。

ですが、手術後すぐなので面会は不可となっております」

『そんな！お願いです！あの人が動けない今、私が太宰さんを護らないといけないんです！』

「規則は規則ですから。面会が可能となるのは明日です。お引き取りください」

Aは看護婦につまみ出されてしまった。

『そんな……どうにかして中に入らないと……』

そうは云っても太宰の病室は三階。

そこに至るまでに必ずナースステーションを通らなければならない。

『どうしよう……』

辺りをうろうろと見回しながら何か手はないか考える。

『あ、あれは……』

病院の裏まで回ってくると、一人の看護婦が洗濯のためかナース服を手に出てきた。

『あれだ……！』

Aはその看護婦の後ろを気付かれないようそっとついていく。

そして洗濯機のある部屋まで辿りつくと、看護婦が洗濯用のナース服を一旦置いて一度その場から離れた。

チャンスと云わんばかりに、Aは籠の中から一枚のナース服を手に取り急いでその服に着替えた。

『わっ、結構小さめ……早くここから出よう』

すると、タイミング悪く、先程の看護婦が戻ってきてしまった。

鉢合わせとなってしまったAの頬に冷や汗が伝う。

「お疲れ様です。洗濯ですか？」

どうやら相手はAが看護婦だと勘違いしているようだった。

『あ、はい！でも肝心の洗濯物を忘れてしまったので私戻りますね；』

「あ、そうですか。ではこの部屋は開けときますね」

『すみません～；』

Aはなるべく怪しまれないようその場から離れた。

『よし、これならいける！』

Aは関係者専用の昇降機に乗って太宰のいる病室へ向かった。