スマホから推しがでてきた 続 【北信介】

30日目 観覧車 ページ41

「にしても、今日はほんま楽しかったわ」

夜景に目を向けたまま北さんはそう零した。

『私も凄く楽しかったです』

こんなに楽しめたのは、北さんだったからなんだろうな。なんてのは言わないけど

「おかげでええ誕生日なったわ」

そう言われたら、そうだ。今日は北さんの誕生日だった、折角プレゼントも用意してたのに楽しくて忘れてた。

『北さん！』

「そんな大声で呼ばんくても聞こえてるわ」

北さんは夜景から目を離しジッ、と私を見た。

私は鞄から渡したかった物を取り出す

『お誕生日おめでとうございます。これ、私から』

そう言い大したものでは無いけれど、ラッピングの施されたプレゼントを渡す。

北さんは目をパチクリし、

ふわりと花が咲くように微笑んだ。



(あ、凄い綺麗)

優しく目を細め口角を緩める北さんの姿は宛ら宗教画で画かれるマリアのように見えた。

「ありがとおな。大切にするわ」

ほんの少し何時もより上ずった声が耳に届く。

『でも、そんな大したものじゃないというか…』

思わず謎の弁護をしてしまう。

中身は何の変哲もないスポーツブランドのタオルと、

黒と白の糸で結われたミサンガだ。

北さんの笑みとその品じゃ天秤にかけれない。

「そないでも、柘榴から貰ったんが嬉しいわ」

『そ、そうですか…』

北さんはいつもの涼し気な無表情になっていた。



私たちを乗せるゴンドラはいつの間にか頂上辺りにいるようで、さっきより建物が遠く感じる

上を見上げれば星空に月が浮かんでいる。

頭にはロマンチストな文豪の言葉が頭を過った。

[月が綺麗ですね]

これをこの人に愚直なまでに伝えられたら、どれほど楽なのだろうか。


糖分が多いそれを私は確かに飲み込んだ。

30日目 夜→←30日目 デート

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す