ア オ ウ 【オーバーキャストシリーズ】

37 ページ38

牛舎へ行き、お婆ちゃんの畑を走り、しいたけ栽培へも顔を出し、



「みなと兄！」



　みなと兄は、あの蛍の所で木偶の坊のように立っていた。


　私がスケッチをねだって連れて行った場所だ。


　辺りは暗いのに、ここだけ蛍の光がミニチュア夜景のように灯りを点している。


　でも来るのが早かったのか去年ほど多くはない。



「別の場所、みつかったんじゃなかったの？」



　みなと兄は、「うっせぇ」と言ってそっぽを向いてしまった。


　私はみなと兄との距離を縮め、



「お母さんが話てたこと、全部聞いちゃった」



　と明るく言った。


　みなと兄は酷く傷ついているようだし、私が癒せるかどうか分からない。


　けど、ひとりで放っておけなくて来た。



「みなと兄は――」


「俺、なんとなく分かってたよ。六花と血が繋がってないことも、日本人じゃないことも」


「――うん」


「親父と御袋は小食なのに俺は大食いだ。


　六花とババアは筋力は大分劣るのに俺は力自慢出来る。


　六花と御袋と親父は怖い番組が好きだけど、俺は怖いとも何にも思わない。


　六花は品行方正で良い子なのに俺はそんなことない」


「――うん」


「クラスメートは身体が小さいのに、俺だけ体格が違う。異次元のように。


　顔だってそうだ。


　俺だけ眉毛と目の間が近い、鼻が妙に高い、――目の色素が違う」


「――うん。見たことある」



　あの時は月明かりのせいだと思っていたけれど、確かに目が仄かに青色を帯びている。


　祭や夜に出歩かないのはクラスメートにそれを気付かれないようにしているからだ。


　目の色は遺伝と国籍は関係ないにせよ、確かに海外はブルーやグリーンの目が多い。



「俺、小さい頃にジジイに“みなとは俺の子じゃないからな”って言われたことがあるんだ」


「お爺ちゃんに？」


「ああ。此処に来て、保育園児だった俺に花のスケッチを教えている時に言われた。


　俺の画風とジジイの画風が圧倒的に違って、何でじーじと違うのって聞いたら、あっ言っちまったって顔してた……。


　それからジジイは飛行機で逃げるようになったよ」



　みなと兄は自嘲するような薄笑いをした。


　やっぱりみなと兄は自分の事について気づいていたらしい。

38　どうしてコイツ等キスしてるんだろう→←36

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す