〈３〉愛を運ぼう【夏油傑】

…２ ページ37

 



「――１人は心細い？ 今日の出来事(できごと)が頭を離れないのかい？」

 彼女は沈黙(ちんもく)して答えない。言いにくいのだろう。そう思った私は少し待っていて。と口にすると自室に向かった。






＊
＊
＊





 しばらくしてソイツが戻(もど)ってくる。両腕(りょううで)に抱(かか)えていたモノに目を疑(うたが)った。

 ボスっと音がして、重ねられた敷布団(しきぶとん)にタオルケット、枕(まくら)が畳(たたみ)に置かれる。

「…まさかと思うけど」

「うん。一緒(いっしょ)に寝(ね)ようか」

 １人じゃなければ多少は寂(さび)しくなくなるだろう？ とソイツが言う。


「頭沸(わ)いてんの？ アンタに抱(だ)き締(し)めてって頼(たの)んだ身としては言いにくいけど、男と寝る趣味(しゅみ)は無い」

 あと、寂しいなんて言ってない。と続ける。

 実際(じっさい)、心細いのは事実だけど。家族以外の前で初めて、それもコイツの前で涙(なみだ)を見せた手前(てまえ)、手遅(ておく)れ感はあるけど、それでもこれ以上弱い自分を見せるのは嫌(イヤ)だった。


「さすがに女性と寝るのはどうかとも思ったんだが、私が一緒にいたいんだ。ダメかい？」

 それに、一緒に寝られる機会(きかい)は滅多(めった)にないからね。とソイツは言って。

「……下心(したごころ)は？」

 そう言えばソイツはフフっと笑(わら)う。

「そんなもの無いよ。そんなことすれば浅上さんを傷(きず)つけることになるからね」

 前にも言っただろう？ 浅上さんを傷つけることはしないってね。と、ソイツは口にした。

「…………勝手(かって)にすれば」

 オレは仕方(しかた)なく、ソイツの言葉に折(お)れる。

 自分の事を想ってくれる人間に強く出られない。それがオレの弱点だと、静かに分析(ぶんせき)した。

 コイツの言葉を断(ことわ)れないなんて癪(しゃく)だと思いながら。


 
 

…３→←８話 夜が更ける

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す