第31話 太宰side ページ32
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なんで子供が、と言ったわりに彼女も子供だった。
というか、背はもしかしたら私の方が大きかったかもしれない。
襟を掴まれて乱雑に引き揚げられる。
壁面に打ち込まれた楔を片手で掴み、僅かな溝に足を引っ掛けただけの状態。
もう片手で私を抱き抱えて彼女は白い息を吐く。
「……あぁ、此れは死んじゃうよ」
「…」
別に助けて呉れだなんて頼んでない。
そう言い返したいのに余りの寒さに震えが止まらない。
いっそ凍えるなら眠るように楽に死にたいのに、身体は無様に生きようとしている。
彼女も震えていた。
それなのに、私に向かって微笑む。
「災難だったね。無事に帰れるまでお話してようよ」
「……何を言ってるの」
意味が分からない。
「此処に来て良かったよ。危うく水死体を目にする所だった」
「馬鹿なの? 其の状況と今にどんな違いがあるのさ」
死体が増えただけ。
「私ね、『命の危険に晒される』って言われて此処に来たの。彼は嘘をついてなかった。だから、生きて帰れるってことでしょう?」
とんでもない思考回路の持ち主だった。
「彼は死ぬ人に向かって死ぬと言える子だよ。燃える暖炉の前で、暖かい陽射しの下で昼寝する約束もしてくれた。だから」
微笑む。
「私が生きて帰れるなら、貴方も生きて帰れる」
断言した。
本当に、意味が分からない。
「何か策があるわけ? 早くしないと凍死するよ僕ら」
「…良かった」
「は?」
「此の世の終わりみたいにしてたのに、今は私に怒ってる」
何なんだ此の女。
「先ずは信じてくれないかな。其の拳銃で私を殺すよりも良い結果に導くから」
「…此の場所に何の用」
「今迷子なの。帰れる気がして歩いてたら貴方が落ちてきたんだよ」
「意味が分からない」
「私、此の世界の人間じゃないから」
「意味が分からない」
「そうかな」
ずっと抱き締められていた。
彼女の体温が抜け落ちていく。
「異能力が使えないね」
「無駄だよ。僕は触れた異能力を無効化する」
「なんだ、だからか」
だから、僕を殺したければ此のまま水路に落とせば良い。
だから、手を離せば彼女は生き残れる。
どうして抱き締めたままなのか。
「だから、私は
顔は見えなくとも、分かった。
驚愕した。
彼女は心の底から
「貴方に出会えて良かった。……ありがとう」
落ちた。
手から力が抜けて、拳銃が水面に飛沫を立てた。
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時