第16話 中原side ページ17
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金属片が雨霰のように降ってきた。
「どうなってやがる!」
断続的に続く爆発によって打ち上がる破片のお陰で声が上手く聞こえない。
「A!」
何故爆発すると分かったのか。
何故此処にはいないと断言出来るのか。
何故、降り注ぐ破片を気にも留めず膝をついているのか。
「中原さん」
「A! 手前、何を隠してるっ!」
困ったように曖昧に微笑む、それが幼子をあやすようにみえた。
「嘘が分かるんですよ」
声を張り上げているわけでもないのに、Aの声はよく聞こえた。
「逃げ込んだときには、出入り口があったんです」
「なに…?」
ついさっき入ってきた門の向こうが、騒がしい。
一人の部下が慌てた様子で走ってきた。
「数名逃亡しました!」
「……」
「爆発に乗じて逃げる算段だったのでしょう。数名もいたのは予想外です」
「裏切ったのか」
体の芯が冷えるような感覚だった。
煙をあげながら落ちてきた鉄骨を殴り付ける。
そんな俺に恐怖する部下と異なり、女は冷静だった。
音もなく立ち上がり、両手でスカァトをはたく。
「どうされますか」
両手を腹の前で組んで、待機。
もしかしたら此奴は上司部下ではなく、誰かに仕えていたのではないかとそう思わせるような振る舞い。
「裏がいるか?」
「そこまでは分かりません」
申し訳ありません、と頭を下げるAを見て、思いの外自分も冷静であることに気づく。
爆発は収まったが、瓦礫の山はいつ崩壊するやも知れたものじゃない。
Aに説明を求めたいが、他にやることがある。
「一人残らず生かして捕らえろ。楽には死なせねェ」
「単独行動の許可を」
「俺が許す」
分かっているのだろう。
俺が生殺与奪を握っていることも、首領に試されていることも。
確かにAには抗う術がない。
だがそこで怯むような様子もない。
「情報持ちを追います」
「捕らえて連絡しろ」
「はい」
それが嘘かもしれない。
この爆発に巻き込まれて既に死んでいるかもしれない。
けれど、Aが元部下の逃亡する方角と逆に走り出すのを止められなかった。
積み上がる瓦礫を足場に、高い壁を乗り越えてその姿が消える。
一般人には到底真似出来ない身のこなし。
「姐さんにも連絡しねェとな」
考え出したら切りがない。
あの太宰も本能か興味を持っていたようだし、この件が終わったらもう一度調べてみるしかないだろう。
「さァ…裏切ったことを後悔させてやる」
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梦夜深伽(プロフ) - 加奈さん» 中也の出番はこれから増やします!! (2020年6月6日 19時) (レス) id: 885dd45dfc (このIDを非表示/違反報告)
加奈 - 中也。 (2020年6月3日 15時) (レス) id: b3d6820988 (このIDを非表示/違反報告)
梦夜深伽(プロフ) - るるさん» ありがとうございます! (2020年6月3日 1時) (レス) id: fef69d0af7 (このIDを非表示/違反報告)
るる(プロフ) - 文章が丁寧で物騒でめちゃくちゃ面白いです...!!更新楽しみにしてます..!!!! (2020年6月1日 15時) (レス) id: 30c2a422ab (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:梦夜深伽 | 作成日時:2020年5月24日 23時