一番星に祈る【推しの子×歌い手】

苦痛の鍵盤 ページ21

。



『...そろそろ投稿しなきゃ。』


そう思っても怠い体は起き上がらない。
目を瞑って、寝てしまったことを自分自身に言い訳しようとしたが、こんなときに限って眠気は全く襲ってこない。

部屋を見渡しても。ギターを手に取っても。
鍵盤を弾いても。


メッセージに溜まった通知を見るだけで心苦しくなった。
それは日に日に少しずつ増えていて。
苦痛が蓄積されていく。



“ピコン”

違う通知音がして、デスクの上に置いたスマホが振動した。
こちらのスマホは【家族用】で アイとアクアとルビー、そしてミヤコさんの連絡先しか入っていない。


やることもなかったので、スマホの通知を見た。
ルビーからのメールだった。


［今日 お兄ちゃんが今日あまのドラマ出るって。］

既読をつけて、〘そっか見てみるよ〙と返信をした。
スマホの電源を切ると無表情な自分がいて。
思ってもいない言葉、ルビーが居なくて良かったと思ってしまった。



「今日は甘口で」通称：今日あま。
少女漫画で確かアクアが漫画を持っていた気がする。
最終話は感動するという感想が多いが、読んだことはないので私は知らない。

今実写ドラマが出ているらしいが良い評判は聞かない。
何故アクアが出演枠に入ったのかもわからない。


アクアは 役者をやりたがらず裏方志望。
評判の悪いドラマに出演したって、余程の目的がないとやろうとはしないはずだ。


考えるより、本人に聞いた方が良いだろう。
アクアの目的はアクア自身にしかわからない。




。





放送時間がやってきて テレビをつけた。


ヒロイン役の子は少しだけ見たことがある。
有馬かな...小さい頃にアクアと競演したような気がする。
態度が大きくて、子役では絶対挫折すると思っていた。

さすが天才子役と呼ばれていたことはあって 悪くない演技だ。
しかし何か抑えている気がして もどかしい。


そう思っていたらヒロインの恋人らしき役をする役者。
始めたてなのか、自分に酔いしれているのか。
棒読みの台詞に外れた演技。
雰囲気も原作も全て無視して突き走っている。



『...なるほどね。』


これは私の推理でしかないが、有馬かなは演技を抑えている。
理由は大根役者を目立たせないためだ。

自分だけが上手くても良い作品は作れない。
肩を落としてでもマシな作品を作ろうとしているのだ。



なんだ、相変わらず天才役者じゃないか。



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