家の事情 ページ23
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ある日の午後のこと。
頬に擦り傷をつくったAに廊下で呼び止められて振り返った。
パタパタと駆け寄って来る姿は砂埃に塗れていて、2年の皆んなに扱かれたなと悟って小さく笑う。
「どうかした?」
「あの…外泊の許可って、学長にとらなきゃいけないですよね」
「……任務じゃない、外泊?」
基本優等生タイプのAがそんな事を言うもんだから問い直せば、視線を彷徨わせた後に小さく頷く。
「えっと、一応担任だから聞くけど。何かあったの?」
「え…と……、」
やけに歯切れが悪いな
違和感を抱きつつ、急がなくて良いと笑い掛ける。
視線を上げて、下げて、上げて。
最後に下がって、漸く小さな声が返ってきた。
「家の、事情で…」
「…そっか。じゃあ学長に話してごらん。あとさ、A」
「は、はい」
何を言われるのかとビクビクするAの頭に手を置いて、ポンポンと髪の毛を撫で付けた。
「複雑な事情なら深くは聞かないけど、僕も一応大人だからさ。困った事があったら言ってね」
「…! はいっ」
「元気なお返事大変よろしい。ところで、弟くんは元気?」
「はい。叔父と楽しくやってるみたいです」
それは良かったと笑い合って、太陽の光が溶ける廊下を2人で進む。
渡したサイレンサーは問題なく使えているか、弾はまだ尽きないか、2年の皆んなとの特訓はどうか。
そんな話をしながらも、頭の5分の1くらいは別の事を考えていた。
ーーこの子の家の事を、そろそろきちんと話さなきゃならない。
例えば前の少年院での怪我。
反転術式の使い手である硝子がいなければ、当然だか病院にお世話になる事となる。
入院や退院の手続きは本人1人だけでは出来ないし、そもそも入寮の事ですら多分この子は親御さんに話していない。
複雑な家庭なのだろうかと思って(伊地知に)調べ(させ)てみても、元を辿っていく程にボヤボヤして最終的にはよく分からない。
今は叔父さんとやり取りする事で何とかなっているけど…
「ねえA」
「はい?」
「今度さ、叔父さんと少しお話し出来ないかな?」
「え、大丈夫ですけど。どうかしたんですか?」
「大人の事情。心配するような事じゃないよ。じゃあ悪いんだけど、アポ取って貰える?」
「分かりました。確認取れ次第連絡しますね」
素直な良い子に笑顔と共にありがと、と返した。
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作者名:瑠璃烏 | 作成日時:2021年4月29日 19時