ep10 ページ12
「ところでA君、なぜこんな所をうろついていたんだ?」
近藤がそう尋ねれば
「あー、自分の部屋探してたらいつのまにか屯所グルグルしちゃって……あははー」
「どんだけ方向音痴だよッ!?」
「ってことで私の部屋まで案内お願いしまーす」
ふざけて敬礼するAを近藤は複雑な表情で見ていた。
そしてふと松平片栗虎とのやりとりを思い出す。
――1週間前――
「とっつぁん……せっかくの話だが断らせてほしい」
近藤は深々と頭下げた。
橘Aを真選組の新たな参謀として雇うという松平の提案を断るために。
伊東の謀反によって身内からの犠牲も多く出た。沖田を含め、仲間を斬った者の心傷もまだ癒えてはいないだろう。
今の真選組は外部因子を迎えるには不安定すぎる。
「近藤ぉ、てめーの考えてることはよォくわかる。だがな、これは逆に好機じゃねェかぁ?」
脚を組み替えながらそう言う松平に近藤は顔を上げた。
「でも万一、その参謀がまた謀反でも起こせば今度こそ真選組は――……」
無意識にでも身内に疑念を抱かずにはいられなくなる。真選組は互いに命を預け合う仲間だ。少しの疑念が大きな亀裂になる。命取りになる。
「いぃや、その反対だ。逆に結束が固まンだよ」
そう恐れた近藤に松平は言う。
「新参者による二度の謀反。もはや身内しか信じられねェようになる」
近藤はハッとしたように目を見開いた。
「ちと荒療治だが、その参謀が上手く使えれば万々歳。万一、裏切ったとしても身内の結束は固くなる。
結果オーライ。どっちに転んでも悪かねえだろォ」
煙草の煙をふぅと一気に吐き出した松平。サングラスの向こうの眼光は鋭く、そして冷たかった。
「……だがそんな捨て駒みたいな――」
「近藤ぉ、てめーのやり方は綺麗すぎんだぁ。だからその分俺が汚ねぇ策を授けてやる。
今回はとりあえず乗れ。悪いようにはしねェ」
――悪いようにはしない……それは真選組にとっての話だ。この子は――……
近藤はやましさを抱えながら土方に自室へと案内されるAの背中を眺めた。
「あーここだったんだ!そうかなぁとは思ったんですけどね」
「表札でもぶら下げとけアホ」
「おぉそれいいかも!ナイスアイデア、トシ!」
「“トシ!”じゃねぇよ!!上司だからな、お前のッ!!」
「どうしよう、今回の上司面白すぎる……ぶふっ」
愉快に笑い出すその姿を見て、近藤は心を痛めていた。
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ギラッフェ(プロフ) - からちぇさん» コメントありがとうございます!とっても嬉しいです!これからも応援お願いします! (2020年9月11日 22時) (レス) id: c665168944 (このIDを非表示/違反報告)
からちぇ - ドストライクな作品でした!めちゃくちゃ好きです (2020年9月10日 19時) (レス) id: b750728265 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - 今井月華さん» コメントありがとうございます!ちょっと気を抜くとすぐ体調崩しちゃいますからね、気をつけます。月華さんもお気をつけ下さい(^^) (2018年11月3日 7時) (レス) id: c530a04275 (このIDを非表示/違反報告)
ギラッフェ(プロフ) - ハニーさん» ご心配ありがとうございます!これからインフルエンザの季節ですし、ハニーさんもお気をつけ下さい(^^) (2018年11月3日 7時) (レス) id: c530a04275 (このIDを非表示/違反報告)
今井月華(プロフ) - お疲れ様です。体調にはお気をつけ下さい^_^ (2018年11月2日 21時) (レス) id: 7d138352b8 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:ギラッフェ | 作成日時:2018年10月1日 22時