風になって消えたい【国見英】

６-３ ページ29

「いじめられてたことによって、周りの大人には迷惑がかかった。勿論母さんにもだ。

母さんは草臥れたこころを隠して、あたしの前では必死に笑っていてくれた。あたしはそれに応えようとして、から回ったんだ。そんな弱い自分が大嫌いだった」



　トーンの低い声で話すA。いつもは呑気な奴が眉間に皺を寄せるところなんて、みたくなかった。

　握った拳は震えていた。



「強さが欲しかった。そんなの、あっても意味がないことも知ってた。母さんに迷惑がかからないことなんてないって、知ってた。
大嫌いな自分と闘うのが、ただの自己満足だってことも。

けどそのうち、自分の存在意義すらわからなくなってきたんだ。あたしは何のためにここにいるのか とか、 仲間がいないのに人に頼ってもいいのか とか」



　切なそうに呟く。あたしがここにいても、お金の無駄にしかならないのに、と。



「もうあたしがいなかったことになればいいのにって。何もかもゼロに出来れば楽になるかもしれないって。

一層のこと、屋上から飛び降りようかと思ったこともあるくらいだ。
けど、その後は？ って考えると、何も出来なくなる。母さんに迷惑はかかるし、あたしの存在が完全に消える訳でもない。


だから今、こんな風に放浪してるんだと思う」

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