能力 230 ページ32
.
美華は目を伏せ、噛み締めるように言葉を紡ぐ。
「どうして…かしらね。私にももう分からないわ。でも、ずっとずっと会いたかった」
「……………もう、６年も経った」
「そうね、6年………この6年で私も一層おばあさんになってしまったわ。でも、貴方はずっと、何十年と前から、貴方は………変わらない」
「………」
変わらない。そうだ。
彼女は人間で、大将は神様なのだから。
「あなたと会えるのは献上の日だけ。話すのもその時の少しの時間だけ。それでも、私は毎年それをとても心待ちにしていたの。だって、あなたに会えるから」
「…………………」
あぁ、こんなにも、嬉しいことはない。
あの時を、毎年来る一瞬を、待ち望んでいたのは、自分だけじゃなかった。
「こんなことを言うのは、失礼かもしれないけれど………きっと、貴方は人ではないのでしょう？」
「…………」
「でも、それでも、楽しみだったの。大袈裟かもしれないけど、あの一瞬のために、私は毎日頑張れたの。生きようと思えたの」
「、、っ！俺も……っ！」
声が裏返った。
大将の目には涙が溜まっている。
「だから……………、だから、最後に、あなたにお礼を言いたかった」
「……最後？」
「ええ、わたし、心臓が悪くなってしまってもう長くないの。お医者様には、もう、能力での治療も限界だって、言われてしまった」
「なんで、なんで………？」
「なんでかしらね。理由はないのよ、きっと。運悪くそれが私だったってだけ。それでも、もう、いいの。思い残すことは、もうないわ」
「…………え？」
「最後、あなたに会いたかった。お礼なんて言われると困るかもしれないけど、あの日が心の底から楽しみだった。憧れて恋焦がれて、本当に楽しかった。
………あなたのことが、ずっとずっと好きでした」
彼女の瞳から、涙が、こぼれる
「…………俺も、俺も、ずっと、君のことが好きだ。君が少女の時から、女性になっておばあさんになった今でも、ずっと愛してる」
「………ふふふ、嬉しいわ。」
ああ、運命とはなんと残酷だろう。どれだけ力があろうと、地位があろうと、たとえ神様であろうと。
今、この瞬間を止めることは、出来ない。
.
この小説をお気に入り追加 (しおり)
登録すれば後で更新された順に見れます 1177人がお気に入り
お気に入り作者に追加
この作品を見ている人にオススメ
この作品を見ている人にオススメ
「ハイキュー」関連の作品
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告感想を書こう！(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)
サヤカ(プロフ) - いちばん、大好きです。こんなにも読み返した作品今までにないです。心無い言葉ではなく我々の感謝に目を向けてください。応援しています。 (2022年10月19日 16時) (
レス) @page50 id: 61500f37b5 (このIDを非表示/違反報告)
小鳥遊蒼 - すっごく面白いです！友達にもおすすめしちゃった！！ (2022年9月22日 17時) (レス) @page50 id: 9b1ede6104 (このIDを非表示/違反報告)
みや(プロフ) - ずっと応援しています！最高に面白くて、毎回更新されてないかなぁと見に来ていました！次回作、本当におめでとうございます！！とても読みやすくて、本当にHQ作品の中で一番好きな作品です。何回も読み直させてもらっています。次回作も楽しみにしています！ (2022年6月15日 16時) (レス) @page50 id: 68bcf78704 (このIDを非表示/違反報告)
甘納豆(プロフ) - 油揚げさん» いつもコメントありがとうございます。新作のコメントも読ませて頂きました。しかし、悲しいことに無意味な低評価が多くメンタルにも影響がありそうなので作り直させて頂きました。いつも本当にありがとうございます🙇♂️ (2022年5月18日 8時) (レス) id: f85dcebcdc (このIDを非表示/違反報告)
油揚げ(プロフ) - 更新ありがとうございます！！！めちゃくちゃ嬉しいです！！！ (2022年4月19日 9時) (レス) @page48 id: b66c454432 (このIDを非表示/違反報告)
作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ
