幻想小噺

15瓶目 煙草 ページ24

ふらふら街を彷徨いかれこれ数十分、
全身から湧き上がるようなあまりの苛立ちに
思わず舌打ちをひとつ夜の空に放った。
遠回しに店を追い出された以上
しつこく通うのは"目的"に差支えが出るだろう。
それにしてもあの男、
気取ったような顔で本当に腹が立つ。
たかがその程度の力で全てを知ったつもりなのか？
思い出す度負の感情がグルグルと頭に渦巻く。

「……今に見てろよ」

誰も見る者がいないのをいいことに、
勢いで肩がけの鞄から煙草を取りだし
その先端に手を触れる。
瞬く間に指先から熱が溢れ煙草に火を点した。
本来これは誰にも見せてはいけない光景なのだが
この夜中の街では許されるだろう。

口に咥え息を吸い込み、ふぅ、と煙を吐き出す。
なんだか全てがどうでも良くなるような、
そんなぼんやりした心地に包まれた。

魔法使いの娯楽といえば酒と煙草、時々悪戯だろう
……なんて誰かが馬鹿にしてきたのを思い出す。
幾ら奪われたものが多くとも、
そこまで堕落するような我ら一族ではない。

憎き道化師を滅ぼす為、
愛する力を取り戻す為、
ここまで自分は努力してきたのだ。
今こそ名声を取り戻すときである。

もう一度煙草の先端に触れると
冷気がそれを包み、火を消した。
まるで自分の心の大切な物が欠けた時と同じように。

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