幻想小噺

9瓶目 仮面を外した ページ16

「兄さん！いないのかい？」
わたくしはその声を聞いて
一気にテンションが下がりました。
はぁ……と盛大な溜息をついて
しぶしぶ玄関の方に行くと、
そこには満面の笑みの弟が。
わたくしが何か言う前に彼は
「久しぶり！会いたかった！！」と
物凄い勢いで抱き着いてきます。
ああ鬱陶しいことこの上ない。
ストレートに迷惑だと口に出せば、
何故か余計に引っ付かれる始末。

……それでは紹介致します。
わたくしが世界で二番目に大嫌いな男、
弟のソルでございます。
こいつは昔から本当に嫌な奴で……。
幼い頃からわたくしに悪戯を仕掛けたり、
大切なものを盗ったりしてきやがります。
本当に最低最悪で……ああもう、
悪口を言っていたらきりがありませんね。
とにかくわたくしはこいつが大嫌いです。

それからソルはひたすら
わたくしに近況を聞き続けます。
無視してもしつこいだけなので
適当に答えていると、
ふと弟の仕事の事が気になってしまいました。
……こいつは何をやっているんだか
よく分からない仕事についているもので。
それよりお前、仕事の方はどうなんです？
そう問うと、今まで笑顔だったソルの表情が
ほんの一瞬だけ、引き攣りました。
しかしまたすぐに笑顔に戻って
「まぁ、ぼちぼち儲かってるかな！」なんて
非常に憎らしい返しをしてくる。
あの一瞬の出来事に気付かれていないとでも
思っているのでしょう。
プロの精神癒術師を舐めないで頂きたい。
それから下らない無駄話を垂れ流した後、
じゃあまた会いに来るね、と
ソルは店の外に消えていきました。

わたくしがもしソルと兄弟でなかったら、
きっと彼は良い人だと思っていたでしょう。
いつも笑顔で親切、友達も多い。
普通良い人だと考えますよね。
……ですがわたくしはね、思うのですよ。
ああいう奴ほど仮面を被っているものです。
笑顔の仮面の下に隠れているのは
私欲に塗れた嘘か、
自分に群がる人々へ贈る嘲笑か。
……ふふ、貴方に分かりますか？
今日だって世界は、
エイプリルフールでもないのに
嘘の色に染まっているって事。

そう言って笑みを浮かべた店主は、
何かに気が付いたようで
床から一枚の紙切れを拾ってきた。
……これは、ソルの名刺でしょうか。
そう呟いて紙を眺めていた次の瞬間、
口角を深く三日月型に歪める。

「……やはり、世界一の嘘つき男ですね」

テーブルに置かれた名刺には洒落た金文字で
こう書いてあった。

「fourth-generation pierrot」

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