幻想小噺

7瓶目 道化師の仮面 ページ12

……そういえば、
最近この街の外れに
サーカス団が来ているのを
知っていらっしゃいますか？
一週間ほど前からテントを張っておりますが、
明後日でここでの公演は終わるらしいですよ。
お客様もぜひ見に行ってみてください、
大変ファンタスティック！ですから。
わたくしサーカスが大好きなんです。
何だかこう……見ていてワクワクするというか。
……ああ、それにしても少し寂しくなります。
あの一団の中でわたくし、
少し仲良くなった方がいたんですよ。
その方も相談で店に来ましてね、
話していてとても楽しかったです。
……興味深いことも分かりましたし。
…………あっ、いえ、何でもありません。
それではわたくしの物語、
開演でございます……なぁんて。

そのお客様が店に来た時、
わたくしはみかんでお手玉をしておりました。
……何ですか？あなたもするでしょう、
みかんでお手玉くらい。
……え？しない？……えっ？
…………とりあえずまぁ、お客様が来たんですよ。
服装は派手な赤黒の帽子に華やかな衣装、
道化師の象徴である仮面。
一目見ればサーカス団員だと分かりました。
わたくしがみかんのお手玉なんていう
いかにも暇そうな遊びをしているのを見て、
その方は何処からともなくボールを取り出し
素晴らしいジャグリングを披露しました。
わたくしのココロは
一瞬で奪われましたね、ええ。
その方は鮮やかな動きでボールを纏めると、
紳士的なお辞儀を一つして
自分はサーカス団のジャグラーだと言います。
わたくしはココロの中で大はしゃぎでしたが、
ひとまずソファーに掛けて頂きました。

プレッシャーって、どうしても逃げられない。
人々の期待が自分には辛い、
もうサーカス団の一員でいたくない、
その方はそう言いました。
ああ、この方に必要なものはアレですね、
そう悟った瞬間わたくしの高揚が
海の波のように引いていきました。

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