一般人が鬼におはぎ入りの箱を投げて逃げまくるお話2[鬼滅の刃]

その名を呼び合う。夢のような時間。 ページ13

お隣さん。




Aちゃん。




お隣さんは私の名前を呼んだ。呼んで嬉しそうにはにかむ。




Aちゃんが私の名前を呼んだの。

だから嬉しくて笑ったら、Aちゃんもつられたのか、すごくすごく優しく笑うのぉ。



幸せで、穏やかで、優しい。まるで夢のような時間。



＊



「A、ちゃん」


頭がぼんやりとして眠い。見慣れない天井が見える。ここは一体何処なんだろう？

思うと、ガラリと戸が開く。


「あー！！目覚めた！起きた！天元様あ！！！」


あの子は、誰だろう？それより、それよりも。私は、何でここに。

上半身だけ起こすとチクリ、と腕に針で刺されたような痛みが走った。なに、って思って視線を下ろすと包帯が巻いてあった。


「あ‥‥」


そうだ。わたし、Aちゃんを探してて、鬼に。

近付く鬼の鋭く光った深爪、その爪がどんどん私に近付いてきて、そしてーーー。

たらりと冷や汗が流れる。お隣の顔は蒼白く色を失った唇はふるふると震えわせていた。


「起きたか」


再びガラリと戸が開いた。入って来た人は結構前に見たぐらいだけどそれでもよく覚えている。確か、


「‥‥Aちゃんがど派手くん、って呼んでた‥」

「嗚呼。宇髄天元だよ。んで、さっき騒いでたのが嫁の須磨。他にも二人、嫁がいる」


須磨さん、呟くと嗚呼と宇髄は頷いた。


「もしかして、私を助けてくれたのも、」

そう言うとお隣は口をつぐんだ。宇髄が眉を潜め何処か悲しげに、苦しげにお隣をみる。


「いや、お前を助けたのはおれじゃねぇ。俺の、嫁達でもねぇ」


宇髄は答えを濁すように言った。俯き、お隣にはまるで答えを言いたくないように見えた。


「お前を助けたのはAだ」


「A、ちゃん」


驚くべきことなのに、実際はそこまで驚かなかった。だって、Aちゃんはいつも私を助けてくれるから。

でも、いつだってそれは自分を犠牲にしていることが条件でーー


「あの、A、ちゃんはぁ‥Aちゃんは、今、何処にぃ？」


どうしても直らない変な話し方をしてしまい、お隣は俯く。宇髄は堪えるような苦しげな声をあげた。


「Aは今、俺の部屋にいる。
まだ、起きてねぇ」

「起きて、ない」


宇髄の言う、起きてないとはどういうことなのだろうか。単なる睡眠からの目覚めのことか、それとも。


「未だ昏睡状態だ」


目の前が急激に暗闇に包まれていく。
絶望に、包まれていく。

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