29話 9000万ドル ページ43
ゆっくり休めているんだろうとそのままにしておき、ブランケットをかけて部屋を後にすると英二は、「あれ、姉さんは？」とひょっこりと顔を覗かせてくる
「寝てる」
「珍しいね」
そんな時、ビーーーッ！という大きな音がした
2人で肩を揺らすとドガッバタン！という何かが落ちる音と『いでっ!?』という海斗の声が聞こえてきた
「なんだぁ？」
「さあ？」
「姉さん？」
『いっ……てぇ…』
部屋から出てきたのは頭を押さえながら涙目でいる海斗だった。ペタペタと歩いてきた海斗は大きなあくびをしながらこちらに来ると『あん？』と目つきが悪いままこちらを見ている
「姉さん、寝なくていいの？」
『いーいー。やることあるから…ふあっ…はふ…眠…』
部屋に入って自分の荷物らしきリュックからゴソゴソと何か出した海斗は『ん"ー…』と唸っている
探し物が難航しているのか、ただ単に眠いから唸っているのか
「姉さん、どうしたの？」
『んー…どのソフト使おうかなって』
「「？」」
「なにするの？」
『ドロボー』
「は？」
目が点になった英二は、「ま、まさか！」と狼狽え始めた
俺とショーターは顔を見合わせてなんだなんだと覗き込み、パソコンとUSBメモリを取り出した海斗は『んじゃま、レッツドロボー掠め取り作戦』とソファに座ってパソコンを立ち上げた
「や、やめときなよ！今度はどこから盗むの!? 本当にバレて捕まったりしたら…！」
『安心しろ。今回はブラックマネーだからな。クリーンマネーに変えて寄付金増額だ』
「そりゃ、海斗姉さんならやりかねないだろうけど…！一体、どこから…」
「…………おい、まさか！」
ハッとした俺が食い入るように声を出すと、『ご名答』と海斗が口角を上げて白い歯を見せて笑った
『おっしゃ、送金完了！律、銀行口座ちゃんと確認頼む』
《了解しました！》
『とりあえず、明日から、いっそがしくなるぞ』
「姉さん、ほんと楽しそうだね」
『うん』
にひひひっといたずらっ子のように笑ってキーボードを叩く海斗は、『本当は』と俺たちには分からない言葉が飛んできた
もちろん、英二にも。どうやら英語でも日本語でもないらしい
『死にたくなるぐらい、やりたくないよ』
その言葉を理解するには、俺は勉強不足であることを痛感させられた
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作者名：サッカーバカ
| 作成日時：2022年1月2日 9時
