そばにいてもいいですか ページ32
カチッカチッ。
静かな部屋に秒針の音だけが響く。
榊Aは森鴎外の帰りを待っていた。
執務室で待っていてくれ、と告げられたまま、時刻は夜20時を過ぎている。鴎外の帰りはどれくらい遅いのだろうか。広い部屋に一人でいるのは寂しいものだ、と大きな窓から夜のヨコハマを眺めていた。
ぼんやりと眺めていると、後方からドアの開く音がした。
「A」
落ち着きのある、愛しい男性の声が聞こえた。
「森さん…!」
Aの顔は一段と明るくなった。長く待っていた相手がようやく訪れたというのは、心が弾むものがある。
「おいで」
鴎外が腕を広げると、Aは駆け寄り抱きしめた。
「つい最近まで、抱擁だけで恥ずかしがっていた子とは思えないね。」
「そ、そうですね…」
ふふと笑いながら、優しくAの頭を撫でた。
「A」
突然、名前を呼ばれ、はいっと良い返事をした。
「今日は君に渡すものがあるんだが、今いいかい?」
「はい、なんでしょう?」
するりと腕が離れた。
鴎外はAの手を引き、横浜全体を見渡せる窓ガラスの前で止まった。
「ごらん、今日は満月だ。」
闇に輝く電気の光よりも凛々しく、美しい月があった。雲もない、月だけが空に浮かんでいる。
思わず感嘆の声が漏れる。
鴎外は笑いながら
「君は、本当に可愛いね。」
と言った。不意だったため、胸がきゅうと締め付けられた気がした。
「あ、ありがとうございます…?」
なぜ疑問形なんだと笑い出す。鴎外につられてAも笑った。
「君といると本当に…退屈しないな。本当に。」
「……森さん?」
鴎外の様子が変だと思うのは、自分がおかしいのだろうか。鴎外はいつもAを誉めてくれるし、愛の言葉を容赦なく(恥ずかしがらずに)言葉にしてくれる。しかし、何か変な気がして仕方ない。
「…ああ、本当はもっと、…良い場所が良いと思ったのだが、…変に格好つけるよりここの方が、Aも緊張しないだろうと思ってね」
珍しい。鴎外が何か、緊張をしている。Aも感じ取り、何故か緊張をしている。
「左手を出してくれるかい」
言われた通りに差し出す。
するりと薬指に入れられる美しい指輪。
「A。遅くなってすまない。
私と、結婚してくれるかな。」
じんわりと世界が滲む。生温い雫がAの指に落ちる。
「い、いいんですか。
私が、森さんのお傍にいても______
柔らかな月の光が、2人を照らしている。
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あとり(プロフ) - さらささん» ありがとうございます;;ちょっぴり苦いお話にしちゃってすみません;私の確認不足でした… あああ本当ですか!嬉しいです……!!これからも精進して参ります! (2019年12月15日 19時) (レス) id: e8ffd9f451 (このIDを非表示/違反報告)
さらさ - すてきな話をありがとうございます 森さんも夢主ちゃんもお互いに想いあっているみたいだけど色んな思いが交差してもう一歩踏み出せない感じですね リアル感があってとてもいいです いやあ 作者様の文才がうらやましいです これからも無理のない様に頑張って下さい (2019年12月13日 15時) (レス) id: a0220cc930 (このIDを非表示/違反報告)
あとり(プロフ) - 白しらすさん» ありがとうございます!!とても嬉しいです…! (2019年10月26日 17時) (レス) id: e8ffd9f451 (このIDを非表示/違反報告)
白しらす(プロフ) - ( ゚∀゚):∵グハッ!!かわいい...かわいいぞここの森さん!!!!!好き!!!!!! (2019年10月25日 1時) (レス) id: 71d6bb7d16 (このIDを非表示/違反報告)
あとり(プロフ) - 凛さん» ああああありがとうございます;;上手くかけてるかとても心配だったので嬉しいです;;こちらこそリクエストありがとうございました! (2019年10月18日 21時) (レス) id: e8ffd9f451 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:あとり | 作成日時:2019年6月16日 23時