【完結】傍にいてもいいですか【短編集】

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腹部を抱え、倒れ込むAの頭を誰かが踏んだ。

｢何があった？｣

｢このガキがよぉ、覗いてやがった。
警察にでも行くつもりだったか？見つかっちまって残念だったなぁ！」

ぐりぐりと頭を踏み、汚い笑い声を出す。
Aは男達の様子に何も思わなかった。痛い、ということは感じたが、それ以外の感情は何も。
胸ぐらを捕まれ、体が浮く。力が入らない。

｢おいおい、よく見りゃ可愛い顔してんじゃねぇか。」

｢はっ、ガキを抱く趣味はねーよ！
だがまぁ…｣

その瞬間、体を地面に叩きつけられた。激しい痛みに、何が起こったか理解ができなかった。その様子を男達が笑っている。起き上がると、額からたらりと垂れてくる。右目に何か液体が入りそうになった。ハンカチでそれを拭くと、薄紅だったものが、真紅に変わった。
＿血だ。
赤い。鉄のような匂いがする。
額から血が流れているのか、とようやく理解し、痛みが走る箇所をハンカチで押さえた。

あ、れ？

まえ、も、こんなことが、あった？


刹那、Aの脳内に、自分とそっくりの男が、倒れているのが見えた。辺りは真っ赤だ。床や壁に血飛沫が飛んでいる。その様子を、二人の男が笑っている。Aは、男達を睨み、倒そうとしたが、力の差で失敗し、殴られ、額から血が流れた。
それでも怒りは抑えられなかった。
Aは、落ちていた包丁で、男達に向かって勢いよく＿


ぽろり。ぽろり。
大粒の雫がAの目から落ちる。
思い出した。

『両親を目の前で殺された後、包丁で相手を刺したらしい。』

違う。嘘だ、あれは嘘だったのだ。
Aが殺したのは、

｢…お母さん｣

涙がとめどなく溢れてくる。
犯した罪。絶望。ぐちゃぐちゃとAの心をを黒いものが覆う。
嗚呼、私は本当に、生きる価値などない人間なのだ。
こんな大事なことを忘れてしまうなんて。
今更、泣き方を思い出すなんて。
痛い。痛い。痛い。心が痛く感じるのはなぜ？

｢っは！聞いたか？お母さん…だとよ！｣

｢可哀想になぁ？これからお前の大好きなお母さんに二度と会えないなんてよぉ！｣

男達が一斉に銃を構える。
恐怖も、悲しさも、何も感じない。Aはただ涙を流しているだけである。

＿感情を理解するために外に出たのに。
心が痛いだけで、何も分からなかった。
約束、破ってごめんね、リンタロウ＿

目を瞑って、死を受け入れた。

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