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それから暫くの間、陽が西に没し始めた頃。
頭を撫でられているような感覚がして、零は少女の膝元で目を覚ました。
そこから見上げると少女は眠たそうな目を擦りながら楽譜と睨めっこをしている様子だった。
手にはどこかで買ったのか、それとも元より持っていた物なのかは定かではないが
手持ち型の扇風機が握られていた。
零がほんの少し意識を手放して休息している間、少女が介抱してくれたらしい。
身体を起こさずに零は、少女の頬に腕を伸ばしてつついた。
「嬢ちゃん。」
声を掛けると少女は零の額を軽く叩いた。
「いてっ…」
『体調はどうですか。』
「お陰様ですっかり元気じゃよ。…なんやかんや言って介抱も膝枕もしてくれる嬢ちゃんが我輩好きじゃぞ。」
一向に膝元からどく気配がない零。
少女は長時間同じ体勢だったせいか、足が痺れているようで、零に対する四分の安心と六分の苛立ちが込み上げてきた。
少女は零の髪を無言でわしゃわしゃとかき撫でる。
「じょ、嬢ちゃん…！？」
『…心配もかけるし、すぐ寝るし、動けないし…。』
「す、すまぬて…。」
やがてその手をぴたりと止めると、常温に戻ってしまった水を零に突き付けて、もう一度今度は頬をぺちんと叩いた。
「いて、嬢ちゃん、それには一体なんの意味が込められて居るのかや？」
零は少女が頬やら額やらを何かと軽く叩く事について聞くと、少女は「別に」と短く答えた。
髪を触る少女に便乗して、零は少女の頬に指を滑らして、髪を撫でる。
ぴくり、と肩が反応して近付けた零の手が握られる。
『…なんですか、これ』
「なんじゃろうなぁ。」
零は言葉を濁して、笑顔を向けた。
それから少女の右頬をくっと摘む。
『いっ…！』
「おぬしは何時も顔が硬いんじゃよ。我輩がいる時くらい、もっと笑っておくれ。」
『いひゃでふ。』
抓られたまま、少女は零のお願いを否定する。
零はほんの少し強めに頬を抓る。
『いっ、いひゃい、いひゃい！』
零の色白の腕は少女の思っていたよりもしっかりとしていて、いくら離すように叩いても何故かぴくりともしない。
昔と口調やらは変わったが、この身体は変わらないものだったと妙に実感した。
「くっくっくっ、」
零は抵抗する少女の様子を面白がって、くつくつと笑い、やがて頬から手を離す。
右頬はじりじりと痛みを帯びて、ほんのりと赤くなっている。
笑う零を見た少女も零の頬を抓る。
「い、いひゃ」
『ぷっ…あははっ…！』
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
