吸血鬼に捧げる歌なんかない (ページ7)

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『なっ、なななな…！？何時から…？！』

勢いよく振り返ると、零が楽譜を覗き込んで、何時の間にか話し合いに参加していた。

少女は口を魚のようにぱくぱくとさせて、動揺を隠せずにいる。

「零はずっと後ろにいましたよ。ねぇ？」

「うむ。ずーっとおったぞ。」

少女の肩には渉の手、頭には零の手が置かれ
がっしりと固定されている。

あたふたとしながら、床に広げていた楽譜やらを掻き集め鞄にしまいこむ。

「おや今日はもうお開きですか？」

『そ、そうです。』

「寂しいですねぇ…。」

「あぁ、そうじゃ日々樹くん。先刻、明星くんが探しておったぞ。」

中庭に来る際に頼み事でも引き受けたのか、渉にそう伝えると、渉は「そうでしたか！」と声を上げて別れの挨拶を告げると、ひらりと花弁を散らして

瞬きする間に消え去ってしまった。

中庭には、零と少女だけが残された。

「嬢ちゃん、今日は作曲の気分だったのかや？」

少女はゆっくりと頷いた。その視線は零を避けている。深い意味は無いのだろうが。

零はそのまま質問を続ける。

「誰かに送る曲かえ？」

少女は首を横に振る。

零に背を向けたまま、少女が反対に質問を繋いだ。

『…なんで、私が中庭にいるって分かったんですか…。』

「それは長年嬢ちゃんと一緒にいた我輩の勘じゃよ。と言いたい所じゃが、残念ながら偶然じゃ。」

少女は零の偶然という言葉に、引っ掛かりを覚えて疑問をぼそりと口にする。

『こんな昼間に…貴方が…？』

視線を漸く零の方に向ける。

零は生まれつき、家系の血筋で日差しに弱い。
その為、日傘をしていても朝や昼といった陽光が強い時間帯は、進んで外に出ることはなく

住処と化した軽音部の部室にある棺桶で仮眠をとっているか、暗闇で読書をしているかのどちらかである。

そんな零が、態々この日差しの強い昼間に進んで出てくるだろうか？

零は少女の横に腰を下ろし、第二ボタンまで開けたワイシャツの襟を掴み、ぱたぱたと身体の熱を冷ますように扇いだ。

その横顔は、普段よりも青白く、見ようによっては今にも倒れそうだ。

何時もの事ではあるのだが、何だか悶々と心に何か雲のようなものがかかる。

零をじっと見つめる。

「…嬢ちゃん、そんな見られると我輩穴が空いてしまうんじゃけど。」

『ごっ、ごめんなさい。』

『…体調、悪そうだから…。』

少女は申し訳なさそうに、零を心配そうに見つめ直した。