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少女の背後から小さく「は？」と苛立ちを含んだ圧が感じられる。恐らく晃牙だ。
「何故嬢ちゃんがここにおるのじゃ…？」
『…貴方が皆さんを困らせてたんでしょうに。』
その言葉を聞いて態とらしくも見えるほど、ぎくりと身を引いて顔を引き攣らせる零。
様子を見た少女も、漸く固まっていたのが解け、薫やアドニス、晃牙と目を合わせた。
アドニスは頷き安堵していて、薫は呆れた笑いを浮かべ、晃牙は時間と労力の釣り合いに納得がいっていないのか地団駄を踏み始めている。
少女ももう少し手こずるものだと予想していたので、こうもあっさりと終わってしまうと、拍子抜けしてしまう。
「…ここ最近嬢ちゃんのピアノが聞けなくて、我輩の活力の源が失われていったんじゃもん…。」
拗ねたような言い方で原因が少女だとする零に、少女もぎくりとする。
『い、忙しかったんです…。そもそも勝手な約束事を結び付けたのは貴方じゃないですか。』
「約束の詳細を聞いた本人から直接同意を得ている以上、我輩に非は無いはずじゃよ。承諾したのは嬢ちゃんじゃからの。」
強気に応戦する零に少女は反抗する。
『私が弾けないくらいで頑張れないなんて、やめてください。』
「おぬしが思っているより遥かに我輩はおぬしに心酔しておるんじゃよ。今更身を引くことなぞ無理な頼みじゃな。」
『他のメンバーの皆さんが困ってるんです。今の貴方は、正直かっこ悪いです。』
零に対する感情が口から漏れだしそうになる。
はっきりと言われた事にショックを受けている様子の零だったが、こうでも言わないと彼は動かないのだから仕方がない。
「ちゃんと練習もしてるし、なんだったらいつも通りっちゃいつも通りなんだけど…凄い静か？そう思ったから調子狂いそうで。」
薫が少女の後に続いて、頬を掻きながら付け足す。
「休憩時間中に棺桶に入る時は大抵何かあった時だからな。」
アドニスもつづく。
「だから呼んだんだよ。」
メンバー全員に口々に言われた零が
ゆっくりと身体を起こし、晃牙、薫、アドニスの方へ目を向け頭を下げる。
「すまなかったのう、世話をかけた。」
自分は何かの更生機関かなにかなのだろうか？と、あまりの速さの手のひら返しに驚いた。
しかし練習をしていなかった訳では無いと聞いて、私情を持ち込まない部分は変わらずあるようだった。
練習へと戻ろうとする彼ら。
その後ろでぼそりと零が呟く。
「…かっこ悪い…か」
き、気にしてた…
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作者名：黒凛蝶 | 作成日時：2022年6月14日 16時
