第六十二話 すれ違い ページ16
猫を飼い主に引渡し、織田は一人、陽が沈んで往く中を歩いていた。
あちらこちらに母親に手を引かれ家へと帰っていくのであろう子供の姿が見える。
その子供たちを養っている孤児たちに重ね、織田はほんのり優しく微笑む。
今日は世間で云うなら金曜日。
普通の勤め人ならこれから会社の仲間達と1杯酒でも呑みに行くのだろう。
現にちらほらと愉しそうに会話をするスーツをかっちりと着た勤め人たちが1軒の居酒屋へと這入って行った。
その様子をちらりと横目に入れ、織田は二人の友の顔を思い浮かべる。
「確か安吾は出張だと云ってたな・・・」
坂口は先日から関西の方へと出張へ行っている。数週間はかかると云っていたし、きっと暫くこちらへは帰って来ないだろう。
歴代最年少幹部である太宰は幹部と云うだけあってその実、多忙の身だ。
「当分はあの場所にも行けない、か・・・」
微かに痛みの走る傷口を指先で触れながら織田は溜息をつく。
ふわりと、嗅ぎ慣れた匂いがした。
甘く香る金木犀の香りに混じる消しきれない鉄の匂い。
その香りの香る方向へと視線を向ける。
「・・・淳?」
織田の瞳が微かに見開いた。
前方から歩いてくる二人組。
一人は見慣れない男だ。優しげに微笑んでいるが何処か怪しく、その笑みの裏側では何か企んでいそうな、そんな笑みだ。
そしてもう一人の方は織田もよく知っている淳
の姿だ。
しかし、いつもの彼女とどこか雰囲気が違う。
レースで細かい花の装飾を施され、仄かに肌が透けて見える上部に、質の善いシルクで作られたスカァトの部分。
身体のラインが強調され袖口や襟元から覗く肌はこれでもかと云う程白かった。
しかし、矢張り裏社会に通じている為か、その身体には怪我の跡が多く、腕や太腿などは着ている服によって隠されていた。
しかしその程度で失われない妖艶さは微かに覗く項や細い首によって醸し出されている。
珍しく結い上げられた髪はきらきらと輝いていた。
「綺麗だ・・・」
そんな言葉が口から零れる。
織田が淳の存在に気が付いた様に、淳もまた織田の存在に気が付いた。
化粧が施された顔が盛大に歪む。
哀しみ。
浮かんでいるのはそれだけだった。
真っ赤な紅が引かれた唇が
しかし、それも一瞬の事であった。
直ぐに彼女の視線は逸れ、媚びる様な笑みを浮かべ男と共に織田の横を通り過ぎた。
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RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» いえいえ、大丈夫ですよ。 (2018年5月11日 21時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
無断転載禁止 - 私の勘違いでご迷惑をお掛けしましたすいません (2018年5月1日 7時) (レス) id: ad49824d41 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» アイビスペイントにて描きましたので一応証拠として写真を一時的にあげておきますね。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» 本垢なら「とっちー」という名前のはずですが・・・。 (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» それは私です。本垢か文スト垢かどちらのイラストを見たのかは分かりませんが「雨雫」という名前ですよね? (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨雫 | 作成日時:2017年4月11日 15時