第六十一話 涙 ページ15
この2日間、どうやって過ごしていたのか記憶にない。
ただぼうっと寝台の上で座っていたのは覚えていた。
思えば、この時から淳の森に対しての忠誠心に罅が入りかけていたのかもしれない。
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そして気が付いたら森が告げていた日が訪れていた。
淳は抵抗するわけでもなく、只々静かに椅子に座っていた。
「淳、顔色が優れていないが大丈夫かえ・・・」
『・・・・姐さん』
ここポートマフィアの数少ない女性の中の一人。尾崎紅葉。
淳の事をよく気にかけてくれる優しい女性だ。
尾崎は櫛を持ったまま静かに問いた。
『・・・・いいえ、大丈夫です』
カラカラになった口で、やっとの事で言葉を紡むぐ。
「そうかえ・・・・・」
尾崎はそれから何も云わなかった。
ただ淳の髪を櫛でとき慈しむように撫でる。
「とうとうこの日が来たか・・・___」
『はい』
淳は感情を押し殺し答える。
仕方の無い事なのだ。ポートマフィアに、
組織の為に、自分すら売らなくてはいけない。
・・・分かっていた事だ。
何時かはこうなるだろうと。
「・・・・淳」
尾崎は櫛を置くと何も云わず抱き締めた。
行かせたくないと、そう云ってくれているような気がした。
震える彼女の手に自分のそれを重ねる。
ポロリと、自分の瞳から何かが零れた。
『嫌、だなぁ・・・・・』
それはどんなに止めようとしても止まらない。
唇を噛み締め、ぐずぐずとみっともなく鼻を啜る。
私の気持ちをよく分かっているようで、姐さんも声を殺して泣いていた。
珍しい事だと、泣きながら考える。
『折角、好きになれた人がいたのに・・・__』
"私を、分かって呉れるような気がしたのに"
薄暗い部屋に淳の啜り泣く声だけが響いていた。
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夕暮れ時、逃げ惑う猫を捕まえ織田は溜め息をついた。
「漸く捕まえた」
今日も今日とて商店街で悪さをする猫を捕まえろという指示が下されていた。
なんとも逃げ足の速い猫で、転ぶ事2回、木々に突っ込む事2回、お陰で身体はあちこち擦り傷や切り傷だらけだ。
取り敢えず捕まえた猫を両腕でがっしりと抱き締め再び逃げ出さないようにする。
猫は少し苦しそうに「なぁ〜ご」と一声鳴いた。
「こら、大人しくしろ」
そう云えば猫はピタリと動きを止め大人しくなる。
カァカァと、遠くで烏の鳴く声がした。
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RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» いえいえ、大丈夫ですよ。 (2018年5月11日 21時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
無断転載禁止 - 私の勘違いでご迷惑をお掛けしましたすいません (2018年5月1日 7時) (レス) id: ad49824d41 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» アイビスペイントにて描きましたので一応証拠として写真を一時的にあげておきますね。 (2018年4月22日 10時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» 本垢なら「とっちー」という名前のはずですが・・・。 (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
RAIN@元アラジンlove(プロフ) - 無断転載禁止さん» それは私です。本垢か文スト垢かどちらのイラストを見たのかは分かりませんが「雨雫」という名前ですよね? (2018年4月22日 9時) (レス) id: 5aca2d49f2 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:雨雫 | 作成日時:2017年4月11日 15時