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14 受け入れてくれたから ページ15

驚いた。


一瞬、自分の口から飛び出した言葉なのかと錯覚した。



しかし、それは紛れもなく目の前の凛月くんから発せられた言葉で、普段声を荒らげることの少ない彼からの、子を叱るかのような言葉に、どう返せばいいのかわからずにいた。


とにかく笑わなきゃ。


悲しい顔や怒った顔より、笑顔の方がいいって誰かが言っていた。

笑えばきっと、相手に嫌な思いはさせない筈だから。

だから、笑わなきゃ。



「お願いだから、もう、笑わないで」
「…ぇ?」
「そんな、無理して笑わないで」


気付けば私の体は彼の腕にすっぽりと収まっていた。
彼の顔は見えないけれど、彼のその震える声で、なんとなく察してしまう。


あぁ、どうしよう。

出来損ないの私には、こんな時にどうすればいいかなんて、何にもわからないのに。



されるがまま、ただじっと動かずにいた。

声をかけることも、彼の背中に手を回すことも、何が正解なのかもわからずに手を宙に投げていた。



「A」

急に名前を呼ばれたからつい肩が跳ねた。
なあに、と返せば彼は途切れ途切れに言葉を発する。




「俺ね、ずっと、頑張ってるの見てたよ」


「言えなくてごめんね」


「でも、たくさん、頑張ってたの知ってるよ」


「俺だけじゃないの。ナッちゃんも、コーギーも、ま〜くんもゆづゆづもみかりんも。みんな知ってる。」





ちゃんと言えなくてごめんね。


ずっと無理させて、ごめんね。



凛月くんのその言葉に胸がいっぱいいっぱいになって、喉元が熱くて、呼吸が苦しくなる。



水滴が頬をボロボロと流れるのはそう懐かしくはなかったけれど、声を出して泣くのは幼少期ぶりだった。


なるべく聞かれたくなくて嗚咽を抑えようとすれば、また呼吸が苦しくなる。
凛月くんはただ謝りながら、私の背中をやさしく撫でてくれた。




「聞かないふりするから、吐き出していいよ」



それを境にボロボロと言葉が出た。



口から。喉から。肺から。

空気と共に途切れ途切れに感情を吐き出した。


誰にも聞かせたくなかったから溜め込んでいた。

それで自分が追い込まれてることだってわかってたけど、誰かを傷付けない為と思えば自分を犠牲にできた。


でも、きっとどこかで誰かが助けてくれるのを待っていたのだ。


例え綺麗じゃなくても、本音を受け入れてくれる友だちが欲しかった。



「…ぁりがと、…りつぐ、」


彼はただ「ん、」と返すだけだった。

15 掴めない人だから→←13 笑うから



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かなかなかな… - ありきたりな言い方になってしまいますが、ものすごく感動しました。所々泣きそうになってしまったり、最後はものすごくニヤニヤしたり。読んでいてとても楽しかったです。素敵な作品をありがとうございました!! (2022年3月29日 19時) (レス) id: 62f4ed090e (このIDを非表示/違反報告)
みる - 最後のタイトル回収がほんとうにすごかったです!めちゃくちゃ楽しませていただきました!! (2021年9月21日 17時) (レス) @page50 id: 8126ce0406 (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - ふわり。さん» コメント・ここまでお付き合い下さり有難う御座います。こちらこそ、これからもお付き合い頂ければ嬉しく思います笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
繕*(プロフ) - 哀霞さん» コメント有難う御座います。そう言って頂けて幸いです…励みになります。次回作の方も宜しくお願い致します笑 (2019年8月23日 14時) (レス) id: 019269e21e (このIDを非表示/違反報告)
ふわり。 - 完結おめでとうございます!雰囲気も素敵でエピローグまで一気に読んじゃいました(笑)これからもファイトです! (2019年8月21日 17時) (レス) id: 9c497f6a6a (このIDを非表示/違反報告)

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作者名: | 作成日時:2019年7月31日 11時

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