雪は白いが君は死ね【時透無一郎】

9話 下心と良心 ページ11

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「はぁ……」


鬼殺隊士、我妻善逸はいつにも増して気が重かった。今日はもう遅いし明日もあるから泊まっておいきというお館様の善意であろう事か産屋敷邸に宿泊することになったこともそうだが、今夜は月がやけにくっきりと夜空に浮かんでいて、善逸にはそれが何だか逆に心地悪かった。

まるで死ぬ前にいいもの見せてやるよとでも言われているかのようで、任務を前にした善逸の荒んだ心を丁寧に逆撫でしてくる。

というか最初から任務なんて本当はやりたくない、いややるけど、やるけども！！！


「上弦の弐かぁ…………参でもあんなに強かったのに？調査とはいえまるきり安全では無いみたいだし……え？死ぬの？俺死ぬの？」


しかも今までの上弦との戦いだって俺は運良く殺されずに済んでただけ、凄いのは炭治郎とか伊之助とか柱の人達だ。それに俺は両方の戦いをほとんど寝て過ごしてたんだぞ。こんな能天気なやつがあるか、なのにいつの間にか階級は上がってるし、以前より難しい任務を任されたりするし。このまま運良く生き残り続けて柱にでもなってしまったらどうしよう………………


はあ、と縁側で1人ため息をついた。
無駄に広い御屋敷の無駄に広い部屋にポツンと敷かれていた布団はふわふわで落ち着かないし、明日はあの派手好きで素顔が無駄に男前な元柱と任務だし全くもって眠れる気がしない。


「はぁ…………ん？」


本日3度目のため息に混じって、微かに誰かの声が聞こえた。声の主は2人。どうやら遠くの方の部屋で誰かが口論をしているようだ。誰の声かはさすがにこの距離ではわからないが、若い……10代くらいの人間が2人。1人は女の子の声だ。


「えぇ…喧嘩かなぁ、なんか女の子が責められてる感じするし……ここからじゃ誰かまでわかんないけど」


(ん？女の子が責められてる？)


……か弱い女の子が男に責め立てられている、これは俺の出番では？？ここにいても一向に眠くならないしこれはもう行くっきゃない


「待ってて……！！あわよくば助けてあげたお礼に俺と結婚して……！！！(本音)」


少しの下心と良心を胸に、善逸は声のする方へと走り出した。

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