裏切りの刀

だから恋愛漫画かよ ページ8

備前「不動？」

厚「ほら、初見で殴りかかった…。」

備前「あぁ織田さんの愛刀かぁ。
思うも何も申し訳ないなっていう気持ちで
いっぱいだよ？」

収穫した野菜をかごにのせていく備前の
三つ編みが揺れる。
畑仕事をしたせいか少し解れかけていた。

備前「裏切っちゃった挙句に殺したんだもん。
そら殴りたくもなるよ。」

厚「備前は関係ないだろ。」

備前「いんや、光秀の罪は私の罪だよ。
それに…不動くんにだったら私、殺されても
いいと思ってる…………なーんてね。」

ペロッと舌を出し笑う。
明るい笑顔なのが厚の胸を痛めた。

厚「なんでそんな。笑えるんだよ。」

辛そうな表情をする厚に備前は微笑むと
頭をワシャワシャと撫でた。

備前「恨まれるのは慣れっこだから。」

厚「っ！」

何重にも硬められた笑顔。
先程の太陽の笑顔とは違う、仮面。
その全てが悲しくって厚は思わず備前の
細い体に抱きついた。

備前「厚？」

厚「…が……るから。」

備前「え？」

厚「俺がいるから。短刀の俺じゃ何の役にも
立たねぇかもしれねぇけど…それでも!」

備前「うん…そっかぁ。厚がいてくれるのか。
そいつは頼もしいなぁ。」

備前「お前は優しいね。厚。」

さらり。備前の髪が頬を撫でる。
その声は優しくて、儚げで、今にも
消えてしまいそうなもんだから厚は
力強く抱きしめた。

(優しいのはあんただよ。)

そう言おうとして備前が顔を上げた。

備前「日が暮れるからかーえろ。」

無邪気な子供のように。
今までのことを無かったことにするように。

厚「そうだな。」

それぞれかごを抱えて帰る。
自身を包み込んでいた温もりを
名残惜しく感じながら。

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