頭は間違うことはあっても 3 ページ36
「そいつは九年前、まだうら若き俺の婚約者だった」
その言葉に驚きつつも、表に出さないように目の前の男をにらむ。私の昔の婚約者。顔も知らない婚約者とは、この男のことだったのか。
フィッツジェラルドさんはソファから立ち上がると、私に近づいてきた。なぜか気迫にあふれていて、思わず後ずさりながらも視線はフィッツジェラルドさんからは決して離さなかった。
「ある日、そいつの家が燃えた。噂で聞いたが、資産家への怨恨だという。焼けた家からは、黒焦げの無数の使用人の焼死体と、資産家親子の死体。しかし、なぜか子供の遺体だけは鑑識不可能だった。何故だかわかるか?」
「……わかりません」
「子供が死体を偽造したのさ。その子供の異能である『創造』を遣ってな」
一歩一歩、確実に詰めてくる。私は横目に部屋を見渡す。広いこの部屋はたくさん扉がある。いざとなったらどこかへ逃げこめばいい。
「俺はまだ元婚約者は生きていると思う。…ああ、勘違いするなよ公女。俺には妻と子供がいる。元婚約者と結婚するつもりはない。俺はただ、その異能が欲しいだけだ」
「だったら人違いじゃないですか?私の名前は違いますし、貴方の言う人は男の名前じゃないですか」
「人違いではない」
フィッツジェラルドさんはそういいながら、自分の懐から写真を取り出した。人差し指と中指の間に挟み、私のほうへと写真を向ける。随分古い写真には、小さな少女が写っていた。
「―――【志賀直哉】は君だろう?」
きっとこの人は分かっている。分かっていて私に聞いている。じゃなきゃ私をわざわざここに連れてこない。でも一体どこから情報が漏れたのだろう。私の過去は、太宰さんに抹消してもらったはず。
「………その名前で呼ばないで」
「……まぁいい。君にも色々あったのだろう。しかし、元婚約者がどんな娘かと思えば……今は探偵社の社員とはな」
「……貴方の目的は何ですか?」
「じきにわかる。それまではこの船旅を楽しんでいるといい」
にやりと嗤うフィッツジェラルドさんは、部下を呼び出した。
敦くんが捕まっている以上、私はここから逃げるわけにはいかない。それをわかっているからこそ、フィッツジェラルドさんは余裕の笑みを浮かべているのだ。
「彼女を客室へ案内しろ。大事な客人だからな」
「……わかりました」
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塩わさび - ミヤさん» コメントありがとうございます!おもしろいといっていただけるなんて光栄です…!!!頑張って更新していきたいと思います……! (2018年4月18日 23時) (レス) id: e627b6cc05 (このIDを非表示/違反報告)
ミヤ - 続編おめでとうございます!人間創造、とっても面白いです!これからも頑張ってください。応援しています! (2018年4月17日 21時) (レス) id: ce29b99b88 (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:塩わさび | 作成日時:2018年4月16日 21時