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「だからこそ」
美羽は、呟くように、けれど芯のある声で言った。
「だからこそ、『絶対に失敗できない』と思い詰めているのよね。ここまで気を遣われて、それでも失敗するようなら____
ただのお荷物」
真緒も、神妙な表情で同意する。
「真くんには資質(ししつ)がある、強力な武器もある。彼も、『Trickstar』に必要だわ。
けれど本人がいちばん、自分自身を信用していないのよ」
難儀なものね、とつけ足す。
気づいてたんですね、と真緒が言った。
「『プロデューサー』だもの。ひとを観る眼はかなりあるつもりよ」
と美羽。
ふ、と笑みを漏らす真緒。
「ほんと、あいつは難儀なやつですよ。でもだからこそ、『S1』では勝たなくちゃいけない。
勝利だけが、自信をつくる。
真に必要なのは、それなんです」
真の保護者のように、彼は____彼らは大事な仲間のことを案じる。
「勝つまでは地獄だろう、見てられませんよ。俺たちが、注意して支えてやんないと......。
あいつは不安定で未熟だけど、才能がある。
臆病になって、日陰にいるべきじゃない。
もっと表舞台で輝くべきだ、俺はそう思う」
「......あなたと同意見よ」
美羽が、静かにこぼした。
「だったら助かりました、先輩」
この言葉が、真緒を支えることのできる【ことば】だから。
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一休みしてから、真緒は黙々とレッスンを始めた。
歌と、ダンス。
美羽は、たまに的確にアドバイスを与え、彼もそこを熱心に練習する。
初めのほうは、その繰り返しだった。
「朝霧先輩。家族に連絡ですか?」
たっぷり踊ってから、真緒は汗を拭いつつ彼女に話しかける。
「いいえ、家族ではないけれど......。そうね。そんな感じの子から、連絡がはいってたのよ」
スマホから目を離さずに、傍らにおいてあったスポーツドリンクを真緒に渡す。
「やっぱり帰ったほうがいいんじゃないすか? 俺、家まで送っていきますよ?」
やはり女の子を学院に泊めるわけには行かないと思ったのだろう。
「帰らないし、送らなくても結構よ」
「でも、____」
真緒が何か言おうとした刹那(せつな)____不意に、おおきな音をたてて扉が開いた。
倒れこむように入室してきたのは、真である。
「......あれっ。まだいたの、ふたりとも? もう日付が変わりそうな時刻だよ〜?」
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作者名:白銀桜夢 | 作成日時:2018年8月9日 18時