検索窓
今日:5 hit、昨日:237 hit、合計:788,919 hit

73★ ページ25



 無惨の手の内でただの肉片となる鬼は、今日だけで6体目だった。

「言ってみろ、Aはどこにいる」

 地を這うがごとく低く響く声、平伏し怯える鬼を見据える瞳は冷たい。

「お、おそらく、鬼殺隊のもとにいると……」

 目に涙を浮かべ、哀れなほど怯える鬼が、地面を凝視したまま震えた声でそう言う。視界に影が落ちる。鬼が恐る恐る顔を上げれば、すぐ目の前に赤い目を爛々と光らせる無惨が。ひっ、と喉から悲鳴が漏れる。

「それで、その鬼殺隊はどこにいる?」
「それはわ、分かりませーー」

 赤い液体が飛び、無惨の足元に7体目の肉片が転がる。
 無惨は青白い顔で立ち上がると、すっかり静かになった無限城を後にした。

 着いたのはAの部屋であった。無惨が与えたその部屋には、未だAの匂いが、息遣いが、強く染み付いている。

 ーー無惨さま! 私の渾身のだじゃれを聞いてください!

 ハッと振り向く。が、薄暗い部屋には無惨以外誰もいない。
 Aが帰ってこなくなってまる1日が過ぎた頃から、無惨は空耳を聞くようになっていた。空耳だと知ってはいても、振り向いてしまった。探してしまった。


 ーードジョウをどうじょ! ……ってあれれ、なんですかその微妙な顔は? 我慢しないで笑っていいんですよ?


 無惨はAの寝台に歩み寄り、手を伸ばす。が、寸前、己の手が血だらけなことに気が付き、躊躇う。
 引き返した無惨は水で鬼の血を全て洗い流し、清めると、操り人形のように再びAの部屋へ向かった。そしてAの匂いの染みついたベッドに沈み込む。


 ーーAが居なくなった。無惨はありとあらゆる手段を使って探した。鬼殺隊のもとへいるということだけは分かった。しかしAは見つからなかった。いくら探しても見つからなかった。





 無惨に呼び出された猗窩座はAと無惨の居住空間を見て、息を呑んだ。
 机や床や棚などがことごとく破壊されていたのだ。玄関にバラバラになった椅子らしきものが倒れており、壁には大きな爪痕が残っている。どこもかしこも、まるで理性を失った大きな獣が暴れたようであった。
 そんななか唯一、そこだけ時が止まっているように、綺麗な部屋があった。
 Aの部屋であった。
 それが意味することなど考えるまでもない。冷淡な始祖の鬼がこれまで執着する存在、それが小さな人間の少女である事実に、猗窩座は改めて恐怖した。


 *

74→←72



目次へ作品を作る感想を書く
他の作品を探す

おもしろ度を投票
( ← 頑張って!面白い!→ )

点数: 10.0/10 (1909 票)

この小説をお気に入り追加 (しおり) 登録すれば後で更新された順に見れます
4209人がお気に入り
設定タグ:鬼滅の刃 , 鬼舞辻無惨 , 溺愛
違反報告 - ルール違反の作品はココから報告

感想を書こう!(携帯番号など、個人情報等の書き込みを行った場合は法律により処罰の対象になります)

ニックネーム: 感想:  ログイン

久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)

作品は全て携帯でも見れます
同じような小説を簡単に作れます → 作成
この小説のブログパーツ

作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時

パスワード: (注) 他の人が作った物への荒らし行為は犯罪です。
発覚した場合、即刻通報します。