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無惨の手の内でただの肉片となる鬼は、今日だけで6体目だった。
「言ってみろ、Aはどこにいる」
地を這うがごとく低く響く声、平伏し怯える鬼を見据える瞳は冷たい。
「お、おそらく、鬼殺隊のもとにいると……」
目に涙を浮かべ、哀れなほど怯える鬼が、地面を凝視したまま震えた声でそう言う。視界に影が落ちる。鬼が恐る恐る顔を上げれば、すぐ目の前に赤い目を爛々と光らせる無惨が。ひっ、と喉から悲鳴が漏れる。
「それで、その鬼殺隊はどこにいる?」
「それはわ、分かりませーー」
赤い液体が飛び、無惨の足元に7体目の肉片が転がる。
無惨は青白い顔で立ち上がると、すっかり静かになった無限城を後にした。
着いたのはAの部屋であった。無惨が与えたその部屋には、未だAの匂いが、息遣いが、強く染み付いている。
ーー無惨さま! 私の渾身のだじゃれを聞いてください!
ハッと振り向く。が、薄暗い部屋には無惨以外誰もいない。
Aが帰ってこなくなってまる1日が過ぎた頃から、無惨は空耳を聞くようになっていた。空耳だと知ってはいても、振り向いてしまった。探してしまった。
ーードジョウをどうじょ! ……ってあれれ、なんですかその微妙な顔は? 我慢しないで笑っていいんですよ?
無惨はAの寝台に歩み寄り、手を伸ばす。が、寸前、己の手が血だらけなことに気が付き、躊躇う。
引き返した無惨は水で鬼の血を全て洗い流し、清めると、操り人形のように再びAの部屋へ向かった。そしてAの匂いの染みついたベッドに沈み込む。
ーーAが居なくなった。無惨はありとあらゆる手段を使って探した。鬼殺隊のもとへいるということだけは分かった。しかしAは見つからなかった。いくら探しても見つからなかった。
無惨に呼び出された猗窩座はAと無惨の居住空間を見て、息を呑んだ。
机や床や棚などがことごとく破壊されていたのだ。玄関にバラバラになった椅子らしきものが倒れており、壁には大きな爪痕が残っている。どこもかしこも、まるで理性を失った大きな獣が暴れたようであった。
そんななか唯一、そこだけ時が止まっているように、綺麗な部屋があった。
Aの部屋であった。
それが意味することなど考えるまでもない。冷淡な始祖の鬼がこれまで執着する存在、それが小さな人間の少女である事実に、猗窩座は改めて恐怖した。
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久遠(プロフ) - 本当に凄く素敵なお話でした。転生した先で2人が幸せであることを願います。転生した先でのお話も読みたいなぁという気持ちもあります。きりんの木さんの小説をまた読みたいのでpixivのアカウントをいつか絶対見つけたいです。教えてくださるのが1番助かりますがね笑 (6月28日 21時) (レス) id: d025dfcb18 (このIDを非表示/違反報告)
みずき(プロフ) - 素敵な話でした。どの目線から言うのかという感じですが、文章の書き方も素晴らしいかったです。無惨様への罰という形で終わりましたが、無惨様へ幸せを送る形で、新しい二人の話を読みたかったなと言う気持ちではあります。 (5月29日 23時) (レス) @page43 id: d9f5409103 (このIDを非表示/違反報告)
chiaki0708(プロフ) - ドキドキが止まらない素晴らしい作品でした!!!無惨様の好感度爆上がりです! (2021年12月14日 8時) (レス) @page43 id: 26a665cc7a (このIDを非表示/違反報告)
尊都(プロフ) - 約1年ぶりにお気に入りを探りこの小説を読み返しました。完結お疲れ様です。寂しいですが、2人らしい最期でした。悪役である無惨さまへの贈り物、素敵だと思います。素晴らしい作品をありがとうございました。 (2021年9月27日 3時) (レス) @page37 id: 6a52012404 (このIDを非表示/違反報告)
なあ - 素晴らしい作品でした。作品の中の無惨が生きているような感覚でした (2021年9月25日 2時) (レス) @page37 id: a69664b85d (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:きりんの木 | 作成日時:2020年1月25日 12時