【文スト】スカーレット・バレット【男主】

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＿＿＿＿重々しい音を立てて開いた扉の隙間からまず目に入るのは、毛足の長い緋色の絨毯だ。


金糸で施された精緻な紋様が美しく、一目で高級品だと判る、マフィアの首領執務室に相応しい敷物である。


次いで視界に入るのは、中央の天鵞絨の椅子と、銃弾を阻む強化硝子の壁。常に命を狙われるマフィア首領にとって、横浜を一望出来ると同時に防弾も出来る其れはとても便利だ。



＿＿＿＿普通なら、其れが目に入る筈なんだよなあ、と太宰は深く溜息をついた。



「ねえ森さん、何やってるの、ねえ」


「ああ太宰君、丁度いい所に。一寸手伝っておくれよ、エリスちゃんが中々新しいドレスを着てくれなくてねえ」



荘厳かつ昂然たる首領執務室中央で、黒髪の男が金髪の幼女を追い回している光景。勘弁してくれないかなあと思った。


太宰の隣に居るのは、錠は掛けられているものの、首領の前に出るのだからとスーツを着せられ見た目も整えた捕虜。


……太宰が横目で窺い見ると、彼は目を逸らして必死で笑いを堪えている様子だった。尤もだなあと思った。


面白い事が好みであるのか、予想外の出来事を楽しんでいるのか、暫く首領と幼女が戯れる姿を堪能した彼は、苦笑を浮かべたまま挙手をする。



「ポートマフィア首領、森鷗外殿。発言をお許し頂いても？」


「ああ……すまないね、インターポールの潜入捜査官の……“緋色の射手(スカーレット・ガナー)”君、だったかな？ 話は紅葉君を通して聞いているよ。


取り込み中で悪いねえ。そこの椅子に掛けていて貰えるかな」


「“緋色の射手(それ)”は痛々しいのでやめて頂きたいですね。……コードネームですが、俺のことは緋景(ひかげ)と。


ああそれから、椅子はお借りしますとも。お気遣いありがとうございます、森殿」



表面だけ取り繕った笑顔の大人(アラサー)二人を横目にしつつ、太宰は男＿＿緋景というらしい＿＿の隣の席に腰掛けた。


それにしても驚嘆すべきなのはこの男の変わらぬ態度だろう。自分を捕らえた、関東裏社会の新たなる頭を目前にこうも動じないとは。


世界警察の狗っていうのは底が知れないものなのかな、と太宰は半眼になりながら考える。……まあ、ただの些事だが。



「さて、待たせて悪かったね……緋景君。貴重な情報の提供を先ずは感謝しよう」

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