【文スト】だから、終止符を打つ【太宰治】

色褪せない記憶と偽物 四 ページ35

(しまった、気づかれた……！)



わたしは太宰幹部の言うとおり、嘘も隠し事も苦手だ。表情に出る。


だからいつも心がヘタなことは言えない、と予防線を張っている。……から、今回もすぐに答えが返せなかった。


何も言えずに当惑しているわたしを冷たく見下ろすと、太宰幹部は「制圧って、便利な言葉だよね」と呟いた。



「……一つ訂正しよう、Aさん。君は嘘も隠し事も出来ないけれど、『本当じゃないこと』を言うのは得手のようだね。


流石、“聖女”……人間の心理の専門家(スペシャリスト)だ」



けど、と太宰幹部は部下から手渡された銃を、わたしに突き付けた。


照準はわたしの額。ごつりという音がして、嫌な汗が全身から噴き出る。


何これ、やばい。如何しよう、怖すぎて……泣けてきそうだ。



だが、ここで引く訳にもいかない。



「泣かせる話じゃあないか、Aさん。仲間の失態を誤魔化す為とはいえ……幹部(私)に虚偽紛いの報告をするだなんて」


「虚偽ですか？ いずれにせよ、芥川君が『制圧』の為に能力を振るわなければ、わたしたちにも被害が出ていました。


わたしはやりすぎそうになった彼を止めただけ。誰も失態などしていませんが」


「君が止めなかったら芥川君は捕虜を殺していたのだろう？ それが失態じゃないと？」



銃口が強く押し付けられる。涙で視界が霞みそうになるが、耐えろわたし。


いつかどこかでやったゲームでも云っていた。



……危機(ピンチ)の時こそ、ふてぶてしく笑え。



「……たとえそれが失態であり、わたしがしたのが『虚偽の報告』だったとしても、わたしにはそれを体を張って止めた功績があります。


上司であるあなたがわたしをここで処分することは確かに可能でしょう。


が、あなたの補佐であり、見方によっては功績を遺したわたしを殺す事項に関しては、既にあなたの権限を越えているのでは？」



……越権行為は、背信と見做されますよ？



そう云って、柔らかく微笑んだわたしを見て……息を吞んだ構成員たちが、一歩後ずさる。


内心ビビりまくっていることは、部下には気づかれていないようだ。わたしには女優の才能があるのかも。



違うか、これは火事場の馬鹿力だ。



「……ふうん」と、太宰幹部は冷えた双眸のまま銃を下ろした。



「確かに君の云う通りだ」

色褪せない記憶と偽物 五→←色褪せない記憶と偽物 三

→ 目次へ｜作品を作る｜感想を書く
他の作品を探す