平行線の陰謀 七 ページ23
何度も同じ事を云わせないでくれ給え、と太宰幹部はわたしと自分を繋ぐ銀糸をそのままに、告げた。
ぞっとするくらい色気を含んだ闇色の双眸に怯む。本当に年下なのか、彼は。
「今日は『幹部』は禁止だってば。……気分はどうだい?」
「最低です」
酔いの頭痛と酸欠の頭痛で目の前がぐるぐるします。……わたしはそう云って、乱暴に口元を拭った。
太宰幹部は心底愉しそうに「正直だねぇ」と今度は瞼の上に唇を落とす。
本当に何がしたいんだこの人は。
「ねぇAさん」
「……何でしょう?」
「____君『が』いいと云ったら?」
それは、どこか懇願するような……哀しさと孤独を秘めた、迷い子の瞳だった。
……恐ろしいまでの静謐さが、わたしと太宰幹部のあいだを占めて動かなくなる。
……ごおおおお、と橋下で大型トラックが通ったような音が響き、振動が伝わって歩道橋全体を僅かに揺らす。
はっと我に返って「如何いう意味ですか」と問うと、彼の目は既に何時ものそれに戻っていた。
太宰幹部は闇に覆われた中……ふわりと小さく微笑むと、手摺に置かれたわたしの手に、手を重ねる。
「君なら判るでしょう」と呟いて。
「死ねれば誰でもいいわけじゃなく、君とだから……一緒に死にたい。
そう云えば、君は私と心中してくれる?」
____嗚呼。
成程、そう来たか……とわたしは静かに目を伏せた。
確かにそうだ。今きっと、死にたいと願う彼を一番知れているのは……心理学者たるこのわたしだろう。
でもそれは矢張り、あくまで彼は、この世の何処にも存在しないのだと自分で確信する『理解者』の幻想をわたしに抱いているだけ。
そんなことを彼に云わせてしまうわたしは、なんて酷い罪人なんだろう。
ああ、でも。
「わたしには、あなたの諦観に付き合う理由はありません」
「……残念だよ」
重ねられた手に、ゆっくりと力が込められる。
そして、幾度かその指で滑らかにわたしの手の甲をなぞり、指先から付け根にかけてそれを滑らせた。
指を絡められ……握られたり、柔く触れたり、離れたりを繰り返される。
やがて、「そんな事をしなくても」とわたしは小さく呟いた。
「……もう、あなたの云いたいことは判りました」
太宰幹部の目が、ゆっくりと細められる。
そしてそのまま、今度は優しく……唇が重なった。
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やっさん - さにー☆彡さん» 後書きの羊の宰相、リンク、スタートになってますけど笑。徳田さんの、転生前の本名は、謎のままでしたか... (2019年8月10日 9時) (レス) id: fd24bdc7a6 (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - くどはるさん» ありがとうございます……!!そう言って頂けてとても光栄です!太宰さんは妖艶でないとだめですよね笑ちゃんと書けていたでしょうか笑…続きではありませんが、後書きにある作品がこれにリンクしたものとなっています。ご興味あればぜひどうぞ! (2019年7月23日 7時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
くどはる - こんなに読み込んだ作品は初めてです…作者様の言葉の卓越さや文章の造りに心底惹かれました!!一つの小説として、何度でも読みたくなってしまいます!太宰さん最高に妖艶です。続きを期待してしまいますが、また新しい小説楽しみに待ってます!素敵なお噺ありがとう! (2019年7月23日 1時) (レス) id: 356a43a05c (このIDを非表示/違反報告)
さにー☆彡(プロフ) - 涼風梓さん» なかなかに長い話でしたが最後までお付き合いくださってありがとうございます!!楽しんでいただけてよかったです! (2019年6月6日 15時) (レス) id: 6034bec340 (このIDを非表示/違反報告)
涼風梓(プロフ) - 初コメ失礼します!とても面白かったです!面白くて一気見しちゃいましたw今更かも知れませんが完結おめでとうございます! (2019年6月6日 15時) (レス) id: b666f93d0b (このIDを非表示/違反報告)
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作者名:さにー☆彡 | 作者ホームページ:http://uranai.nosv.org/u.php/hovel/AKOwww1
作成日時:2018年3月24日 21時